第9話 エクレア
ホルビス王の執務室
ホルビス王とエクレールが向かいあってソファーに座っている。
「エクレール、ご苦労だったな」
「はい、お父様。聖女は頑なですので、懐柔策をとっていきたいと思います」
「だが、貴族たちの不満の目もある。あまり時間はかけないように処分するように」
「はい、貴族たちは、今回の召喚で、かなりの負担をさせましたので、無能がいるというだけで、不満が溜まってしまうのでしょう」
「そうだな。その不満がこちらに向かないようにあの小僧は早急に処分しなければな」
「はい、お父様。その辺はお任せください」
「ふむ、だが、聖女はかなりあの小僧に執心していると聞く。どうやって引き離すのだ?」
「はい、まずはあの子供と仲良くなりますわ。それから、聖女から自然に離れるように仕向けていきます」
「できるか? あの聖女の感じからすると、難しいようにも感じるが」
「はい、これは失敗しても構いません。要は強行手段をとったときに、こちらが疑われないようにしておけばいいだけのことですので」
「ふ、結局は強行手段を使うか」
「それが手っ取り早いので」
「そうだな。ときには強引な手段も必要だ。しかし、バレぬようにな」
「はい、入念に準備をします」
「それなら良い」
エクレールはほくそ笑んだ。
(早いところ、聖女の手綱は握りたいところね。
あの力があれば王位継承争いも安泰になるわ)
歓迎の宴の時間になった。
女子達は、ドレスを着て。男子達はタキシードを与えられた。
シンもメイド達にタキシードに着替えさせられた。
シンは女顔なので、男装の令嬢のように見えてしまう。
「きゃー、シンくん可愛い」
「みなみおねえちゃん、ぼくはおとこだよ」
「うん、とってもかっこいいよ。それに可愛い」
「かっこいいっていってくれて、ありがとう。おねえちゃんもとってもきれいだよ」
美波は赤いスリムなドレスを着ている。
「嬉しい、シンくんありがとう」
美波がシンに抱きつく。
「おねえちゃん。えへへ」
桐花と玲奈が近づいてきた。
「シンくん、どう?」
玲奈は水色のフレアスカートのドレスを着ていた。
「れいなおねえちゃん、とってもきれいだよ」
「ありがとう。シンくんもとっても似合ってるよ」
「シンくん、私はどう?」
桐花は紫色のベルラインのドレスを着ていた。
「きりかおねえちゃんもとってもきれいだよ」
「シンくん、ありがとう。シンくんはとっても可愛いよ」
「おとこなんだけどな」
「シンくん、小さい子に可愛いは褒め言葉なのよ」
「そっか。ママもいってたよ。じゃあ、ありがとう」
3人は自分たちのドレスの話で盛り上がっていた。
そこに、男子3人が近づいてきた。
「きれいだな本庄」
「そう、ありがとう工藤君」
「ほ、本庄きれいだな」
「ありがとう、皇良君」
「本庄さん、きれいだよ」
「ありがとう、犬飼君」
美波が機械的に返事を返す。
桐花と玲奈が顔を寄せ話す。
「美波ちゃん、塩対応だね」
「うん、男子は地雷踏んだからね」
ホルビス王とエクレールが出てきた。
「皆の者、今日はよく集まってくれた。
今宵はこの国にとって、重要な英雄達の歓迎の宴である。
心いくまで楽しむが良い」
王が挨拶を終えると、貴族達が動き出す。
英雄の少年少女に挨拶をしたいのだ。
しかし、その前に南は動き出した。
「2人とも料理をとりに行かない? シン君にいっぱい食べてもらわないと」
「うん、そうだね」
「分かった。行こう」
料理は色とりどりの豪華な料理がテーブルに並んでいた。
「シンくん、食べたいものをおねえちゃん達に言ってね。とってあげるから」
「うん、じゃあ、これとこれとこれとって」
「はい。これね。あっちに椅子があるから、そこまで運んであげるから、そっち行こうね」
「ありがとう」
椅子があるところに行き、シンを座らせて食べさせる。
「誰か、1人はシンくんについている事にしよう」
「うん、まず私がシンくんと一緒にいるから、美波と桐花は料理をとりに行って」
「うん、よろしくね」
「行ってくるね」
貴族達は、料理をとりに行く少女3人には声をかけられない。
食事をしようというものに声をかけるのは、マナー違反になるからだ。
代わりに、3人の少年に声をかける事にしたようで、遠巻きだった貴族達は散っていった。
交代で料理をとりに行き、全員料理をとって来たので、4人とも料理を楽しむ。
「みなみおねえちゃん、これ、おいしいよ。たべる?」
「うん、ちょうだい」
「はい、アーン」
「アーン」
「どう?」
「うん、美味しいね」
「シンくん、私にもアーンして」
「いいよ」
「私も」
「いいよ」
4人が楽しく食事をし終えると、早速貴族達が集まり始めた。
「聖女様、我が息子を紹介したいのだが」
「玲奈様、うちには錬金の素材がたくさんあります」
「桐花様、我が領地の農地にどうかお力を貸してください」
3人とも群がられているため、シンに気を向けることができなくなっていた。
シンは美波のそばにいようとしていたが、貴族に間に入られ押し出されていく。
ついに輪から外に出てしまったシンは、仕方なく遠巻きに見ていた。
その状況でも美波は横目でシンの動きを把握していた。
その美波の頭に警鐘が鳴った。
シンにエクレールが近寄ったのだ。
(いけない、シンくんのところに行かないと)
しかし、なかなか貴族達から抜けられない。
「こんばんは、シン様」
エクレールが、声をかけてくる事に対して、シンはなんの屈託のない笑顔で返す。
「こんばんは、エクレールさん」
「楽しんでいますか?」
「ちょっとつまらないです」
「まあ、そうなんですか?」
「おねえちゃんたちは、大人の人とお話ししてるし」
「それでは、あちらに行って、お菓子でも食べませんか?」
「いいの?」
「ええ、いいですよ」
エクレールはチラッと視線を動かして、シンの手を握り素早く動き出す。
「さあ、こちらへどうぞ」
「でも、みなみおねえちゃんにいわないと」
「聖女様は今、お忙しいので、邪魔しては悪いですわ」
「そうなんだ。じゃましたくないし」
「ええ、シン様は偉いですね。さあ、行きましょう」
エクレールはシンを連れて、会場から出て、別室に行く。
「さあ、こちらにお入りください」
そこは、豪華な応接セットのある部屋だった。
シンとエクレールがソファーに座ると、お菓子とお茶をメイドが運んできた。
「さあ、どうぞシン様。いっぱい食べても構いませんよ」
「うわぁ、すごい。いただきます」
どれも、美味しいお菓子だった。
料理も少し足りなかったこともあり、夢中になって食べた。
「ところでシン様」
「なに?」
「シン様の今までの生活を教えていただけませんか?」
「うん、いいよ。あのね」
シンは、母親のことや保育園の友達のこと近所の犬の話などをした。
エクレールは相槌を打ち、時には驚き、喜んで話を聞いた。
シンは嬉しくて、なんでも話した。
シンは、話を聞いてくれるエクレールが好きになった。
「シン様、私はシンと呼んでいいかしら? その代わり私のことをエクレアと呼んでください」
「うん、いいよ」
「シン、お願いね」
「よろしくね、エクレア」
シンは嬉しそうに笑った。
エクレールもニコニコしていた。
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