第8話 謁見

 再び、謁見の間に呼び出された一行。

今回は部屋の両側にいた貴族たちはいなかった。


「おう、聖女一行よ。其方たちの素晴らしい能力の話は聞いているぞ。

無事に能力の確認は済んだんだな」


 聖女一行と言われたので、仕方なく美波が口を開く事にした。


「はい、先ほど能力の確認は済みました。

その前にご容赦いただきたいことがあります。陛下」

「言ってみるが良い」

「私たちは、王制もなかったような世界からやってきました。

ですから、陛下に対する礼儀などもわかりません。

特にこの子、山村心は小さな子供ですので、お目溢しをおねがいいたします」

「許す。おい、シンとやら」

「はい」

「昨日は災難じゃったな。皆、本心でその方のことを悪く言ったわけではない。

許すが良いぞ」

「? はい、わかりました」


 シンは、王がなんと言っているかわからなかったが、返事をしたほうがいいと思い、答えた。

美波は、昨日のことを無かった事にされるのは腹が立ったが、ことを荒立たせる必要もないため、黙っていた。


「おう、そうだ、余の名前を聞かせていなかったな。

余はホルビス・ネルマンという。この国の王だ」


 それぞれ、形程度に頭を下げた。

シンも皆んなを見て、頭を下げた。

その姿に女子3人は小さくくすりと笑った。


「ところで、聖女よ。昨日のこの謁見の間で怒鳴った時はどうやったのだ?

あれは魔言に似ているが、少し違うと、同席していた宮廷魔法士たちも言っていた」

「あれは、無我夢中だったので、よくわからないです。

あんな力持っているなんて思いませんでしたし、自分でも驚きました」

「そうか、それではその力、今後検証の必要があるな」


 それから、ホルビス王は勇者の蓮から順に全員に声をかけ、労った。

奏は見ていて思った。


(昨日のシンくんに対する態度が無ければ、人のいい王様に見えるのよね。

でも、警戒はしないと。それにエクレールの方も気になる)


 チラと、エクレールを見るが、ニコニコしている。


(エクレールも、朝の態度が本性だと思わないと)


 ホルビス王がシンにも声をかける。


「その方は、荷運び士ということだったか。何か持てるのか?」

「なにももてませんでした」

「良い、その方はまだ幼い。大きくなるまで、城で保護すると約束しよう」

「ありがとうございます」

「ハッハッハッ、なかなかに礼儀正しいのう。

荷運び士の鍛錬に励むと良いぞ」

「はい」


 そして、ホルビス王は全員を見渡し、言った。


「他に何か言いたいことはないか?」

「それでは私から」

「む、聖女よ、なんだ?」

「はい、私、本庄美波と高槻桐花と東海玲奈は行動を極力一緒にさせてください」

「うむ、良いぞ。ただ、それぞれ修行がある時はその限りとはいかぬぞ」

「それは分かっています。それ以外の時は例えば村に出向しないといけない時など、極力一緒に行動させていただきたいのです。」

「うむ、それでいいぞ。勇者たちは一緒じゃなくていいのか?」


 蓮たちが期待する目で見てきた。


「いえ、彼らは彼らの役割もあるでしょうから、別でも大丈夫です」


 蓮たちはあからさまにがっかりしている。


(そんなにがっかりされても困るわ。不安材料は減らしておきたいからね。さて、もう一押しね)


「良いだろう。これで終わりか?」

「最後に、こちらの山村心は私のそばに常に置いていただきたく思います」

「それは、その方が修行中もか?」

「はい、そうしてください」

「ふむ、良いだろう。好きにするが良い」

「ありがとうございます」

「それでは、これまでにする。今宵は歓迎の宴だ。それまで休むと良いぞ」


 ホルビス王の一言で、謁見が終わった。


 美波は部屋に戻り、桐花と玲奈とお茶をしている。

シンは寝てしまった。


「美波ちゃん、うまく行ったね」

「うん、上出来よ」

「王様相手によくあそこまで言えるわ。驚いた」

「シンくんを守るっていう目的があったからだよ、玲奈」

「美波ちゃん、お母さんみたいね」


 美波はキョトンとした顔をしてから、納得したような顔をした。


「ああ、きっとこれが母性本能なんだわ。シンくんを守ろうと思うと力が湧いてくるの」

「なるほど、きっとそうね」

「美波ちゃんの母性はしっかり成長してるからなぁ。私は……」


 そう言い、桐花は自分の小さい胸を揉む。


「ちょっと、母性に胸の大きさは関係ないでしょ」

「でも、確かに美波の胸は大きい。ちょっと私によこしなさい」

「玲奈ちゃんは私より大きいでしょ。もらうなら私よ」

「あげられないし、あげないわ」


 桐花が話を変える


「それにしても、シンくんって、1人だけ10級だったでしょ。

異世界人は力を授かるっていうのに、どうしてだろうね」

「シンくんは巻き込まれただけだから、力を授かれなかったのかも。

あの時、美波と手が触れたから、一緒に転移したけど、力をもらえなかったのかもしれない」

「そうなのよね。もしかしたら、私のせいかもしれないの。シンくんに申し訳ないわ」

「それは違うよ美波ちゃん。」

「桐花……」

「美波ちゃんもシンくんも強制的にこちらに呼ばれてしまったの。

誰かのせいって言うんだったら、絶対にこの城で召喚をした人たちだよ。

間違えちゃダメだよ」

「……うん、ありがとう桐花。私ね、それでも罪悪感が拭えないの」

「美波ちゃん」

「だから、私はその分もシンくんを守ろうって思ってるんだよ」

「美波、私も手伝うから、一緒にシンくんを守ろう」

「うん、私もだよ。美波ちゃん」

「ありがとうね、2人とも」

「当たり前だよ」

「当然よ」


 玲奈がシンのいるベッドを見て言う。

「歓迎の宴だっけ、それまではまだ時間あるよね」

「あるはずだけど、何?」

「ちょっと、シンくんと添い寝してくる」

「え? 起きちゃったらどうするの」

「大丈夫、そっと行くから」

「玲奈ちゃんはなんで添い寝するの?」

「シンくんに抱きついた時、すごく落ち着いたから。あと、いい匂いもした」

「もう、玲奈」

(でも、こうすることで、シンくんをみんなが好きになってくれたらいいな)

「じゃあ、そっと行ってよ」

「分かった」


 玲奈はシンの隣に横たわったかと思ったら、すぐに眠ってしまった。


「あはは、玲奈ちゃんの方が子供みたい」

「だね」


 2人はしばらく気持ち良さそうに眠るシンと玲奈を眺めていた。

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