第7話 手のひら返し

 美波の魔法についてはかなり調べることができた。

聖魔法は中級まで使えて、火 土 水 風 光 闇などの属性魔法は全て初級を使えた。

現段階で、ここまでできることは珍しい。

いつの間にか来ていたエクレールも喜んでいた。


「さて、それではシン様の能力ですが」


エクレールがちらと後ろの兵士を見ると、大人の背丈より高い大きな荷物を運んできた。


「荷運び士ですので、こちらの荷物を持っていただけますか?」

「そんな、こんなに大きな荷物、無理に決まってます」

「いえ、荷運び士でしたら当然できるはずなのですよ。さあ、シン様、やらないとミナミ様に迷惑がかかりますよ」

「シンくん、迷惑なんて思ってないから、大丈夫よ」


 シンが一歩進んで出た。


「おねえちゃん、やってみるね」

「シンくん……」


 シンは荷物の前に行き、両手を広げて持ち上げようとしたが、ぴくりとも動かなかった。


「あら、動かないですねぇ。仕方ないです。小さい荷物にしましょう」


 そう言うと、シンと同じくらいの大きさの荷物を持ってきた。


「これなら流石に持てるでしょう。逆に言うとこれを持てなければ荷運び士としての価値はゼロですが、まあ大丈夫でしょうね。役立たずになりたくなければ、頑張ることをお勧めしますよ」

「何いってるんですか? この子にとってはこの荷物でも大きいです。それな」

「何いってるんですかはあなたです。聖女様」


 美波は言葉が詰まる。

エクレールは言葉を続ける。


「この世界は厳しいのです。自分の能力を有効に使うこともできずに生きていけるのでしょうか?

聖女様が常にそばにいれば大丈夫かもしれませんが、ひとときも離れずにいられるとでも?

能力を知るのはシン様のためなのです」

「だからと言って、」


 美波はなおもいいすがろうとしたが、シンが止める。


「おねえちゃん。だいじょうぶ。ぼくがんばるからね」

「シンくん」


 シンは真剣な顔をして持ち上げようとするが、今度も全く動かなかった。


「まあ、まさかこれも持てないなんて」

「フハハハハハ」

「ワハハハハハ」


 周囲は心無い笑いに包まれた。


 美波は憤った。


「ふざけないで! 最初からできないことを言っているのはそっちでしょ」

「聖女様、私たちは力あるものには敬意を払います。

しかし、力を示せないものにどう敬意を示せと言うのですか?

単なる役立たずじゃないでしょうか?」

「あなた」


 言い返そうとした、美波の視界の端にシンが映る。

シンはまだ荷物を持ち上げようとしている。


「シンくん!」

「うううううう」


 シンが、必死の形相で、荷物を持ち上げようとする。

シンの周りで空気が揺れたように見えた。

すると、今までテコでも動かなかった荷物が浮き上がり始めた。


 シンの膝の高さぐらいまで、荷物は浮き上がった。

しかし、そこが限界だった。

荷物もろともひっくり返ってしまった。


「うわー」

「シンくん」


 美波は荷物をどかすが、その重さに驚いた。


(こんなに重いものをシンくんに持たせようとするなんて)

「大丈夫? シンくん」

「イタタタ、だいじょぶ」

「ちょっと、待ってね。お姉ちゃん痛いのを治す魔法を使えるようになったから」

『ヒール』

「うわー、きもちいい」

「そう、良かったよ」

「おねえちゃん、ごめんね。もてなかったよ」

「気にしなくていいのよ。シンくん」


 そこにエクレールが口を挟む。


「そうですわね。気にすることはありませんわ」

「エクレールさん、あなた」

「そんな目で見ないでくださいまし。シンさんは十分に頑張りましたわ。

ここまで頑張るとは思いませんでしたの」


 エクレールはシンの前まで行き声をかけた。


「シンさん。あなたを誤解していましたの。

あなたは立派な殿方ですよ」

「ありがとう」

「シンさんを城をあげて保護いたします。よろしくお願い致しますね。シンさん」

「よろしくおねがいね」

「エクレールさん、ちょっと宜しいですか?」

「? なんでしょうか、聖女様」


 美波は、エクレールをシンに聞かれないところまで連れていく。


「エクレールさん、何を企んでいるの?」

「何も。 あれだけ、やる気を出せるお子様なら、将来見込みがあるかと思い、保護することを決めたのですわ」

「本心なの?」

「もちろんですわ。シンさんはしっかりお守りします」

「それならいいのだけど」

「それでは、宜しいでしょうか? 皆様の謁見の準備をしなければなりませんの」

「え、ええ」

「それでは失礼致しますわ」


 エクレールと共のものたちは、そこから去っていった。

その時のエクレールの表情から、何かを読み取ることはできなかった。



 召喚者の少年少女たちは、メイドの案内で、休憩をする部屋に行った。


 男子は男子で集まり、今日できたことなどを興奮して話している。


 女子とシンは別のところに集まり、話していた。


「玲奈ちゃん、どうだった?」

「私は簡単なポーション作りをしたわ。きちんと効果が出たみたい」

「すごいね。私も小さな草が大きくなったんだよ」

「それはすごいね。美波はどうだった」

「私は、聖魔法の治癒と、属性魔法って言われる火、水、土、風、それと、光と闇魔法を使えたよ」

「すごい、全部使えるの?」

「そうみたい。」

「さすが、聖女様ね」

「やめてよ、恥ずかしい」


 玲奈が、表情を改めて、美波に聞く。


「それで、シンくんに対する対応はどうだったの?」


 それで、美波は先ほどあったことを2人に話した。


「保護してくれるって言ってたの?」

「うん、でも急な手のひら返しよ。まだ信用できないわ」

「そうね、気を抜いちゃいけなそうね」

「私たちで、シンくんを守らないとね」

「うん、玲奈 桐花よろしくね」

「任せておいて」

「頑張るよ」


 少女たちはメイドが呼びにきたので、移動を始めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る