第6話 朝のひと時

 翌日早朝。


 シンと一緒に寝た美波は、シンを抱き枕状態にしていた。

シンは目を覚ますと、抱きついている美波を起こさないように、ベッドから抜け出そうとした。

が、がっちり掴まれていて出れなかった。


「うごけないなぁ。でも、おねえちゃんあったかい」


 シンは動けないが、美波に抱きつかれていることに安心感を得て、そのまま身動きしないことにした。


「うーん」


 美波が、動いたおかげで拘束が緩んだ。


「いまだ。よいしょ」


 シンは、抜け出すことに成功した。

そのまま、窓を開けバルコニーに出て外を見ようとするが、手すりで外がうまく見えなかった。


 一度戻って、椅子を持ち出し手すりのそばに置き、椅子に登る。


 そこには登っている朝日と、美しい街並みが広がっていた。

シンはわかっていないが、地球で言うと中世ヨーロッパくらいの建物だ。


「うわー、きれいだなー」


 しばらく見ていたシンはポツリと呟く。


「ママがみたらよろこぶかなぁ。ママとみたかったなぁ」


 しばし、感傷に浸っていたシンは動き出す。


「よし!」


 シンは、リュックサックから3つのジャグリングボールを並べて、1つを手に取り、上に投げては片手でとることを繰り返していた。

熱中し出して、かなりの時間が過ぎた頃、美波が起きてきた。


「シンくん、おはよう。早起きだね」

「おねえちゃんおはよう。よくねむれた?」

「うん、おかげさまで。でも、よくねむれたなんてよく聞いてくれたね」

「ママがいつもいってるから」

「そうなんだ。いいことだね。……ところで何やってたの?」

「ジャグリングのれんしゅうだよ。まだひとつのボールをうえになげてとるしかできないんだ」

「へー、すごいね。どうしてこんなに早くから練習してるの?」

「ママにあえたときにみせてあげたいんだ。このボール、ママがたんじょうびプレゼントでかってくれたの」

「そうなんだ。じゃあ、練習してできるようにならないとね」

「うん! おねえちゃんはわかってくれるからだいすき」

「私もシンくんのこと大好きよ。でも、分かってくれない人もいるの?」

「うん、ほいくえんのかずくんなんて、ぜったいにできないっていうんだよ。

やってもないのにね」

「やってもないのに言うのはおかしいね。シンくんは正しいこと言ってるよ」

「ありがとう」


 そこへ、メイドが入ってきた。


「朝食の準備ができています。食堂の方へご案内します」

「ありがとうございます。シンくんご飯だって、大丈夫?」

「うん、だいじょうぶ」


 シンがボールをリュックにしまって、荷物置きに戻す。

南と手を繋ぎ、メイドについていく。


「おねえちゃん、ここおっきいよね」

「そうね、王様のお城だからかしら」

「ここおしろだったの? すごいね」

「そうね、すごいわね」


 美波は、シンの驚き方がおかしくて、ニコリとした。


「? おねえちゃん、どうしたの?」

「シンくんが可愛かったの」

「ええー、そうなの? でもぼくおとこだよ」

「男の子だって可愛い時あるわよ」

「そっか、ママもかわいいっていうや」

「そうでしょ」

「あと、ぼくよくおんなのことまちがわれて、かわいいねっていわれる」

「シンくんは本当に可愛いわよね」

「でも、ぼくはかっこいいほうがいいな」

「そうね、シンくんは両方目指せば?」

「りょうほう?」

「うん、両方。可愛くてかっこいいって感じ」

「わかった。めざしてみるね」


 前を歩いているメイドも思わずにっこりとしてしまっていた。


 食堂に着くと、残りの召喚者全員と、エクレールもいた。


「遅くなってごめんなさい」

「ごめんなさい」

「いえ、結構ですわ。お座りになって」

「はい」


 すぐに朝食のプレートが出された。

「「いただきます」」


 早速食べ始める。


「それでは、お食事をしながら聞いてください。本日の予定をお話ししますわ」


 みんな、エクレールを見る。


「本日は外の鍛錬場で、皆さんの現在使える能力を確認していただき、その後、再度、王との謁見をしていただきます」


 桐花が手を挙げて聞く


「私、魔農士なんですけど、鍛錬場でいいんですか?」

「はい、プランターなど用意させますので、大丈夫です。錬金術師のレイナさんの素材なども用意させますのでご安心ください。他に何か質問はありますか?」


 美波が手を挙げて聞く。


「シンくんも一緒でいいですよね」

「ええ、構いませんが、聖女であるミナミさんと荷運び士であるシンさんは同じ場所では確認できませんよ」

「それは問題ありません。私の検査の時にはシンくんについてきてもらい、シンくんの検査の時には私が付き添いますから」

「……そうですか。しかし、それでは余計な時間がかかってしまうかと。お子さんを待たせるのも良くないですし」

「シンくん、お姉ちゃんが検査している時は待ってられるかな」

「うん! ぼくまってる!」


 エクレールは誰にもわからないように舌打ちをした。

顔には出さないが、苛立っている。


「こう言ってるので大丈夫ですよね」

「はい、まあそう言うことでしたら」

「はい、ちなみに今後シンくんに何かあるときは私が付き添いますので、お忘れなく」 

「……はい、承知しましたわ。それでは、私は失礼させていただきます。

時間になりましたらメイドがお迎えに行きますので、よろしくお願いします」


 皆に背を向けた瞬間エクレールは冷酷な顔になった。


(あのガキがいるとダメかもね。でもまだ判断はしないわ)




 メイドに呼ばれ、鍛錬場に移動する。

鍛錬場には、フルプレートアーマーの兵士や、ローブの魔法士らしきものが多くいた。


 エクレールが前に出る。


「皆様、ご足労いただきありがとうございます。

それでは、それぞれ別れて能力の確認をさせていただきます」


 美波のところには白いローブの女性と黒いローブの男性が来た。


「ミナミ様、聖女様の能力診断させていただきます。治癒士のジュリアと申します。こちらは魔法士のローガンと申します。

聖女様は聖魔法とそれ以外にも通常魔法が使えるはずですので、魔法士のローガンにも来てもらっています」

「そうですか。わかりました」

「あの、そちらのシン様なんですが、もしよかったら、あちらでおやつなど食べて、お待ちいただけたほうがいいと思うのですが」

「お構いなく。シンくんは私と一緒にいますので」

(この人たちが完全に信用できるまでシンくんを人に委ねたりしないわ)

「ねっ、シンくん」

「ねー」

「そ、そうですか、それでは始めさせていただきますね」


 ジュリアはこほんと咳払いをしてから話し始めた。


「まずは聖魔法ですが……」











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