第4話 美波の怒り

 美波はなぜこうなったのかわからないが、同じように力を込めるイメージで続ければ、彼らを圧倒できると思い、力はそのままに、声はよく通るように高い声で続けた。


「この子はまだ4歳なのよ! お母さんと2人で遊んでたの。

それをあなたたちが母子を引き裂いてここに連れてきたの。

それが、ちょっとガラス玉が光らなかっただけで、自分たちの思うような結果が出なかっただけで、処分ですって?

ふざけないでちょうだい。人をなんだと思ってるの!

あんたたちにこの子を無能なんて言う資格はない!

この子に何かするなら、私が許さない!」


 貴族たちは地べたに這いつくばってガタガタと震えていた。

王も青い顔をしているが、なんとか体裁だけは保っていた。

エクレールはいつの間にか玉座の隣にある椅子に座っていた。

同じように青い顔をしている。


 桐花と玲奈は驚愕していた。

3人は仲が良く遠足でも行動を共にしていたくらいだったが、2人は美波が怒ったことなど、おおよそ見たことがない。

美波を一言で言うなら、お淑やかなのだ。


それが、これだけの怒りを表しているのだから、言葉にできないくらい驚いた。


「美波ちゃん」

「美波」


 2人に声をかけられて、ハッと我に帰る美波。

シンを探すように振り返ると、そこに立っていた。


「シンくんごめんね。怖かったよね」

「ううん、みなみおねえちゃんがまもってくれたからだいじょうぶだよ」

「本当?」

「うん、おねえちゃんがおこってたとき、からだがひかってあったかくなって、ほっとしたんだ。

おねえちゃんのおかげだよね。ありがとう」

「そんなことがあったの?」

「美波ちゃん、私たちもそうだったよ」

「うん、私たちは美波に守られたみたい。……男子は違ったみたいだけど」


 男子たちは、腰を抜かして座り込んで震えている。


「あ、ごめんね」

「いいよ、あいつらシンくんの悪口言ったり笑ってたから」

「そうだよ。弱いものいじめに加担してたんだよ」

「そうなんだ。じゃあ」


 美波は3人の前に行き、


「あなたたちもシンくんをいじめたら許さないから」


 圧を込めて言うと3人はぶんぶんと首を縦に振った。


 それから、美波はシンのところに行き優しく抱きしめた。


「頑張ったね」

「うん」


 エクレールが近づいてきた。


「ホンジョウミナミさん」

「エクレールさん、私はこの子を守ります。この子に手を出さないでください」


すると、エクレールはふわっと笑った。


「ええ、承知しております。仕切り直させていただきたいので、皆様方のお部屋にご案内しますね。

今日はお疲れでしょうから、この後食事をしてお休みください。明日、またお話ししますね」

「それでは、私はこの子と同じ部屋にしてください」

「部屋にはベッドが1つしかありませんから」

「結構です。一緒のベッドに寝ますから」


 少し、エクレールは考える仕草をすると、答えた。


「承知しました。お二人でお使いいただき結構です。お部屋にご案内しますね」

「お願いします」

「それでは。私がご案内いたします」


 エクレールに先導されて、部屋のあるあたりにつくと、エクレールは振り返って言った。


「各部屋にはメイドがご案内いたします」


 それぞれの部屋に案内された。その時に他の女子2人の部屋も確認するのを忘れなかった。

部屋に入ると、豪華な天蓋付きベッドがあり、4人掛けの丸いテーブルがある大きな部屋だった。

メイドは食事のことや入浴のことなどを説明して、出て行った。


「すごく豪華ね」

「ベッド、おおきいね」

「大きいね。シンくん、疲れたかな。少しお昼寝する?」

「ねてもいいの?」

「うん、夕食になったら起こすからね」

「ありがとう。ちょっと、つかれちゃった」

「そうよね。じゃあ、一緒に寝てあげるね」

「やった」


 美波はシンに添い寝した。

シンは横になるとすぐに寝てしまった。


「無理もないよね。こんな小さいのに、こんなことになってしまうんだもん。私も何が何だかわからないよ。

もう、うちに帰れないのかな」


 シンがいるので気丈に振る舞っているが、美波もただの女子高生なのだ。

不透明なこの状況は不安で仕方がない。

不安を紛らわすように、シンを抱きしめた。


(シンくんを抱きしめると、安心する)


 美波は、シンがいることで精神的な面を安定化させていた。

短時間だったがお互いで、持ちつ持たれつの関係になっている。


(シンくんは私が守らないと)


 シンを抱きしめながら、美波は改めて決意した。


 しばらくすると、「コン、コン」と扉がノックされた。

扉が開いて、メイドが入ってきた。


「ミナミ様。キリカ様 レイナ様がお見えです」

「あ、はい、入ってもらってください」

「美波ちゃん、きたよ」

「美波、お疲れ」

「2人ともお疲れ様」


 テーブルに着くと、メイドがお茶を入れて3人の前に置く。

それが終わると出ていった。


「あ、お茶美味しい。紅茶かな。少しフルーティーな感じ」

「そうね。美味しい」

「この世界でも紅茶が飲めてよかったね」

「桐花、向こうの世界で、紅茶なんて飲んでたの?」

「飲んでたよ。たまに」

「たまになんだ」

「紅茶ってセレブみたいだよね」

「うん、偉くなったみたい」

「うふふ、そうね」

「ところで、あの子、シンくんはどう?」

「今はよく寝てるよ、玲奈」

「そっか、疲れたろうからね」

「私も限界かも」

「そうだよね、桐花。私が抱きしめてあげようか?」

「うん」


 美波が桐花を抱きしめる。

桐花が泣き始めた。


「うわーん、美波ちゃーん」

「よしよし、怖いよね」

「うん、怖いよう」

「そうだね」

「お母さんに会いたいよう」

「そうだね。玲奈もおいで」

「私は……。」

「こう言う時は、泣いたほうがいいよ。おいで」

「うん」


 玲奈も美波に抱きついて泣いた


「私もどうなるかって考えると怖いの」

「怖いよね」

「ふえーん」

「よしよし、大丈夫だよ」


 しばらく2人は泣いた。

離れた後も2人は赤い顔をしている。


「ありがとうね、美波ちゃん」

「ありがとう美波」

「うんうん、役に立てたならよかったよ」

「美波ちゃんは泣かなくっていいの?」

「うん、私はシンくんがいるからね」

「シンくんがいると大丈夫なの?」

「うん、シンくんを守ろうと思うと、力が湧いてくるんだ」

「そうなんだ」

「でも、泣きたくなったらよろしくね」

「うん」

「任せて」

「2人もいつでも泣いていいからね」

「「うん」」


 ディナーになるまで、3人は不安を忘れるように雑談をして過ごした。

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