第3話 無能者
全員が、石の部屋から連れ出され、大きなお城のような建物に案内される。
階段を上がったり、長い廊下を歩いたりした先に、大きく重厚な扉があった。
エクレールが説明する
「これより謁見の間になっております。皆様にはこちらで能力診断をしていただきます。
王や高位貴族の方々がいらっしゃいます。
礼儀などはわからないでしょうから不要ですが、粗相のないようにお願いします」
重厚なドアが開くと、明るい大きな部屋があらわれた。
そこにエクレールと数名のローブの者と鎧を着た兵士が先に歩き、高校生たちがついていく。
シンは美波と手を繋いでいる。
正面には玉座があり、そこに恰幅のいい壮年の男が座っている。
玉座の左側には痩せた中年の男が控えていて、そこから横一面に広がった階段が5段ほどある。
左右には豪華な服を着た男女が並んでいて、品定めをするような目でこちらを見ている。
シンはその目を恐れて、美波の手をぎゅっと握った。それに気づいた美波が小さな声で
「大丈夫よ。私がついてるからね」
と、言ったため、安心したように頷いた。
階段の手前、5メートルほどでエクレールたちはとまり、男たちは膝をつき、エクレールはカーテシーのような姿勢をとって、口をひらく。
「陛下。第2王女エクレール、英雄召喚の儀、恙無く終えました」
「おお、エクレールよ。大義であった」
「ありがたきお言葉。つきましては彼らの能力診断をこの場で行いたいと思うのですが、いかがでしょうか?」
「うむ、良きにはからえ」
「はっ、それでは」
エクレールがローブの男に目配せをすると、別のものに水晶玉のようなものを持って来させ、台座を用意し、そこに載せた。
「陛下、ご覧ください。こちらが能力診断の宝玉となります。
こちらに手をかざすと、持っている職業が表示され、また光の強さで、力の大きさのランクを測れる物となっております。
1級を一番上として10級が一番下になります。ただ、召喚者のために8級以下など下位のものはいないと思われます
また、1等級は世界的に見ても過去から現在に至るまで2名しか確認されておらず、2級でも現在5人だけ、3級で50人ほどしかいないと言われております。また、1級の上に特級というのがありますが、それはこの石が計測しきれないで割れた場合を言います。事実上ありえませんが」
もちろん、これがどういったものか、王も貴族たちもわかっていたが、召喚者たちへの説明を兼ねてエクレールは語った。
「うむ。始めるが良い」
エクレールは召喚者たちに振り返り声をかける。
「それでは、皆様方こちらへ。1人ずつ名前を言ってから、こちらに手をかざしてください」
召喚者たちは顔を見合わせたが、工藤蓮が一歩前に踏み出した。
「まずは俺からやる。工藤蓮です」
工藤蓮が手をかざすと、宝玉が眩しく光った。
ローブの男が声を張り上げる。
「工藤蓮様 ゆ、勇者 3級になります。勇者はオールマイティに戦え、それらをハイレベルでこなし、聖剣を使える可能性があります。」
謁見の間はどよめいた。
「勇者だと」
「それも3級とは。すごいランクじゃないか」
「勇者なら同じ3級でも他を圧倒できるのではないか」
「これは幸先がいい」
「快挙じゃないか」
「さすが姫様だ」
王もエクレールも満足そうな顔をしている。
「それじゃあ、今度は俺だな。
皇良衛が手をかざすと、先ほどよりは弱いが眩しく光った。
「皇良衛様 聖騎士 4級です。 聖騎士は防御に優れ、攻撃にも能力を発揮します。特にアンデッドに対しては絶対的な優位性を持っています。」
「4級はすごいぞ」
「聖騎士とは素晴らしい」
「じゃあ、次は僕で。
犬飼京太郎が手をかざすと、皇良より少し暗く光った。
「犬飼京太郎様 魔法士 5級です。魔法士は戦闘や日常などに魔法を使える職業です」
「魔法士もいいじゃないか」
「5級でも一流だから、素晴らしいぞ」
「それじゃあ、私がやります。
高槻桐花が手をかざすと、衛くらい光った。
「高槻桐花様 魔農士 4級です 魔農士は主に農地を豊穣にするなどできる職業です」
「おお、魔農士か。素晴らしい」
「我が領にもぜひお迎えしなければ」
「いやいや、まずは我が領に」
「それにしても珍しい」
「次は私。
東海玲奈が手をかざすと、桐花くらい光った。
「東海玲奈様 錬金術師 4級です。錬金術師は魔法薬を作成したり、場合によっては希少金属などを合成したり、魔道具を作成することができます」
「おお、4級の錬金術師とは素晴らしいじゃないか」
「錬金術師は不足しているからありがたい」
「これで、ポーションの不足も解消されるかもしれないぞ」
桐花と玲奈が美波のところに来る。
「美波ちゃんの番だよ。頑張って」
「美波、大丈夫だから」
「ありがとう。桐花 玲奈。 シンくんちょっと待っててくれるかな」
「うん、いってらっしゃい、おねえちゃん」
「うん。本庄美波」
美波が手をかざすと、蓮よりも明らかに強い光が出た。
「本庄美波様 せ、聖女 2級です。聖女は主に聖魔法に適性があり、他の魔法もオールラウンドに高いレベルで使うことができます」
「おお、なんということだ」
「職業としての聖女が出たなんて、どれくらいぶりだ」
「2級とは。この国は安泰だな」
「特に聖女様は都市結界も張ることができるからな。安全が確保できるぞ」
美波がシンの元へ戻ってきた。
「シンくん、お待たせ。怖くなかった?」
「うん、だいじょうぶ」
「それじゃあ、シンくんの番だよ」
シンが不安そうな顔になる。
貴族たちに注目されているのが怖いのだ。
「どうしてもいかないといけないのかな」
「うーん、シンくん小さいから、いいっていうかもしれないけど……。お姉ちゃんと手を繋いで行こうか」
「うん……ありがとう、おねえちゃん。いっしょにいって」
「もちろんだよ。シンくん」
2人は顔を見合わせてニコニコする。
「シンくん、名前言えるかな」
「やまむらしん、4さいです」
「4歳だと、なんでそんな子供が召喚されてるんだ」
「召喚にコストがかかってるのに、あんな子供なんて」
「いやいや、もしかしたら、すごい能力を秘めてるかもしれないではないか」
「そうだな見てみよう」
シンが周りの声に怯えて動けなくなったので、美波が目線を合わせギュッと抱きしめる。
「大丈夫だよー。私がついてるからね」
美波が安心させるように言う。
「わかった」
シンが力強くうなづく。
「いい子ね」
美波が頭を撫でると、シンがはにかんでから、宝玉に手をかざす。
宝玉はほとんど光らなかった。
宝玉を見たローブの男は失笑した。
「山村心 荷運び士 10級」
それを聞いた瞬間、謁見の間はどよめいた。
「なんだそれは」
「10級だと。小僧恥を知れ」
「荷運び士だと!その小さな体で、何を運ぶんだ」
「追放しろ」
「生ぬるい。処分だ!」
シンに向かって心無い言葉が投げかけられる。
エクレールも王も呆れた顔で見ている。
シンは顔を青ざめさせて、立ちすくむ。
「な、なんで……」
美波は、自分の背にシンを隠し叫ぶ。
「待ってください! こんな小さな子になんてことを言うんですか!
この子は巻き込まれたんです。
助けてあげるべきです」
しかし、怒号は止まない。
「いったいいくらかけて呼んだと思っているんだ」
「そんなガキ、何も使い物にならないではないか」
「無能者め」
「無能者を今すぐ追放しろ」
「いいや、処分だ」
「処分だ」
「処分しろ」
口々に悪意のある言葉が発せられる。
王はニヤッと笑いこの状況を眺めている。
召喚者の男子の3人も嘲笑っている。
美人の美波がシンを構うのが気に入らなかったため、いい気味だと思っているのだ。
「ガキが本庄に取り入っているからだ。処分だとよ」
「本庄さんは君には勿体無いよ。可哀想だけど仕方ないね」
「ふふふ。でも、どうやって処分されるんだろうね」
女子2人は青い顔をして震えながら、守るようにシンの前に出た。
シンは、カタカタと震えて、堪えていた涙がボロボロと流れ始めた。
「マ、マ、たすけ、て」
さらに怒号は強くなり、それに合わせて嘲笑も強くなる。
もう、シンは立っているのも限界になっていた。
それを見て、美波はかつてないほどの怒りが湧いてきた。
勝手に呼び出したのは自分達ではないか。
それを能力がないからって処分する?
その傲慢さは一体なんなんだ。
4歳児相手にすることとはとても思えない。
恥を知るのは自分達だ。
体が熱くなる。全身が不思議な光に包まれているが、本人は気づいていない。
そして、力の限り叫んだ。
「待てって、言ってるのが聞こえないのか!」
低く思い声だった。
その瞬間、謁見の間がビリビリと揺れ、何枚もの窓ガラスが割れた。
叫んでいた貴族たちや男子の召喚者たちは腰を抜かし、ローブの者たちと兵士たちも顔を青ざめさせていた。
謁見の間を静寂が包む。
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