第2話 プロローグ2

「なんなんだよ、ここはよう」

「なんで私たち、ここにいるんだろう、動物園じゃないのかな?」


 遠くで、怒声が聞こえてくる。

眠りについていた意識がだんだん浮上してきた。

体は冷たいが、頭は暖かくて柔らかいものに乗せられているようだ。

いい匂いもする。


 薄く目を開くと、石のような天井があった。

前にテーマパークで見た天井みたいとシンは思った。


「気がついた?」

「う、うーん」

「まだ、そのまま寝てていいよ」


 声の方に顔を向けると、先ほどの少女の顔が近くにあった。


「あれ、おねえちゃん。どうしてぼくねてんのかな?」

「それは、私も分からないんだよね」

「あっ、ママは? どこ?」

「君のママは、さっきあなたを呼んでいた綺麗な女の人でしょ。ここにはいないみたい」


 シンは起き上がる。どうやら、少女に膝枕をしてもらっていたようだ。


 シンは周りを見回してみる。

大きな石でできた部屋だった。

壁には黄色く光るランタン。天井にもぶら下がっているようだ。

見ている方向には、大きな扉がある出入り口が1つ。

左右にフルプレートアーマーを着た兵士が立っている。

反対を見ると、豪華な水色のドレスを着た金髪の綺麗な顔の少女を中心にして、ローブを着た男女が20人ほどいる。

その後ろには10人ほどのフルプレートアーマーの兵士が並んでいて、同じ格好をしたものが左右の壁にも10人ずついる。


 男3人女3人計6人いる高校生たちは、部屋の中心辺りにいて、状況を把握できずにいる。


「ママをさがさないと。おねえちゃん、ありがとう。ママをさがしてくるね」

「え? どこに行くの?」

「あそこにドアがあるから、そこをでれば、ママがいるかも」

「危ないよ。どういうことなのか分かるまでここにいたほうがいいよ」


 シンは思い出したような顔になる。


「そうだった。どっちにいけばいいかわからないときはまってないといけないんだった」

「そうね、えらいね。よく分かったね」

「でも、ママにあいたい」


 落ち込んだ声で、シンが言う。


「大丈夫だよ。きっと会えるよ。お姉ちゃんがそれまで一緒にいてあげるからね」

「ありがとう、おねえちゃん」

「うん、君の名前を教えてくれる?」

「うん、やまむらしんだよ」

「シンくんって言うのね。私は、本庄美波。みなみって呼んでね」

「うん、みなみおねえちゃん」

「いい子ね、シンくん」

 

 美波は、この状況が不安でたまらなかったが、シンを元気づけようとすることで、心の均衡を保っていた。

美波はシンを抱きしめる。不思議と落ち着く気がした。


「みなみおねえちゃん、ありがとう」

「え?」

「ママがぼくがなきそうなとき、いつもだきしめてくれるんだよ。おねえちゃんもそうしてくれてるんでしょ」

「どういたしまして。でも、実はお姉ちゃんも少し泣きそうなんだ。でも、シンくんを抱きしめたら涙が引っ込んじゃった。

だから、私もありがとうね」

「そうなの? じゃあ、おねえちゃんがなきそうになったら、いつでもぼくをだきしめていいからね」

「えへへ、ありがとうね。シンくん」

「ぼくも、ありがとう」


 お互いに笑顔を交わし合う。


 気づけば、ざわつきが収まってきていた。

代わりに皆、正面の少女に注目していた。


 正面にいた少女が喋り始めた。


「皆さん、落ち着きましたか? 私はネイマル王国の第2王女エクレール・ネイマルと申します。

皆さんは、我が国に伝わる古代魔術の英雄召喚でこちらの世界に渡ってきました」


 高校生たちは思い思いのことを口にする


「異世界召喚キター」

「俺の時代がやってきたな」

「何それ、帰れないの」

「怖いんだけど」


 高校生の中心にいそうなイケメン少年がみんなに声をかける。


「みんな、騒がないで、とにかくこちらの女性の話を聞こう。状況がわからないと何もできない」


 すると、高校生たちは静かになった。

それを見てエクレールは話だす。


「ありがとうございます。お名前を伺ってもいいですか?」

「はい、工藤蓮です。レンと呼んでください」

「はい、ありがとうございます。レン様と呼ばせていただきますね」


 エクレールは全体に向けて話し始めた。


「我がネイマル王国は外国の侵攻、魔王国との戦いに明け暮れていて、疲弊し切っています。

このままではこの国は滅びてしまい、そこに住む多くの民たちが犠牲になるでしょう。

私達はこの状況をなんとかしようと、日夜努めていたのですが、努力及ばずに、今も国境線は脅かされ、無辜の民が犠牲になっています。

そこで、皆様のお力をお貸しいただけないでしょうか」


 そこで、女子生徒が声を上げる。


「力を貸すって具体的に何をやるんですか? 私たち何も力を持たない高校生なんですけど」

「実は皆さんは世界を渡る時に、力が与えられています。その力とは戦う力であったり、作物を育てる力であったり、ものづくりの力であったりします」

「そんなこと言っても、力を与えられるなんて信じられないんですけど」

「異世界を渡る時に得られる力は皆さん全員に与えられます。その証拠に私の言葉がわかりますよね。

これも力の1つなんです」


 また、高校生達がざわつく。


「本当だ。気が付かなかったけど、異世界語喋ってるぞ、俺」

「私も。不思議な感覚」


 エクレールは続ける。


「皆さんがご協力いただければ、ここでの暮らしは保証します。我が国にお力をお貸しいただけないでしょうか?」


 先ほどの女子生徒が口をひらく。


「家に帰らせてと言ったら、帰れるんですか?」


 エクレールは眉を伏せてから、喋り始める。


「残念ながら、戻るための方法は我が国には伝わっていません。ですから、皆さんはここの世界で暮らしていくしかありません」

「そんな、勝手な」

「なぜ、僕たちが呼ばれたんでしょうか?」

「召喚をするときに強い力を発揮できるものが6人集まっているところをターゲットにしました。

そうしたら皆さんがここに召喚されたのです。」


 今まで、黙って成り行きを見守っていた美波が声を上げた。


「あの、この子を入れて7人なんですけど」


 エクレールは、シンをチラと見て、答えた。


「その子はたまたま近くにいたのではないですか? 幼児はターゲットに入れていないので」

「そんな、ひどい……」


 美波は絶句する。

シンは話についていけなくて、美波を見つめるばかりだった。


 エクレールは笑顔で話を続ける。


「帰ることはできませんが、過去に召喚された方々は皆、成功を収め満足いく人生を送られたようです。

この国にいれば出世栄達思いのままです。

素敵な女性や、頼りになる男性にも巡り会えることも可能です。

皆さんもきっと、素晴らしい人生を送られることでしょう。

どうか、皆さんのお力をお貸しください」


 再び美波が口をひらく。


「断ったらどうなるんですか?」

「その場合は、社会などの常識や最低限必要な技能を学んでいただいたのち、ある程度のお金を補助させていただきますので、自由にしていただいて結構です。

おそらく皆さんに備わっている力があれば、十分生活はしていけるはずです」


エクレールは全員をゆっくりと見回すと言った。


「それでは皆さん、ご自身の力を調べてみましょうか?」

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