第42話 二人に挟まれ大ピンチ
ドアを開けた俺は、シエルとばったり顔を合わせた。
こいつ、まさか盗み聞きしてたのか?
「どうしたの、壮太君?」
後から
「な、何でもない。ちょっと考え事を」
そう言いながらシエルに目で合図をする。すぐ部屋に戻れと。
コクッ!
頷いたシエルは、何を思ったのか一階へと降りてゆくではないか。
待てこら! そっちじゃない!
俺たちが一階に行こうとしているのに、そっちに逃げてどうするんだよ!
どうやらアイコンタクトは失敗したようだ。
「何かあったの? 誰か居るの?」
さすがに足音や気配でバレるだろう。
「えっと、そう、母親がね」
「お母様が?」
「そうそう、きっと俺たちが不純異性交遊してないかチェックに来たのかも」
ごめん、
かぁああああああ――
「どうしよう……。わ、私、壮太君のお母さんに、性にふしだらな娘さんって思われちゃったかも」
その自覚はあったのかい!
「だ、大丈夫だよ。俺の母親って、意外と性に大らかだから……って、俺は何を言ってんだ」
「そそ、そうだよね。お母様も早く孫の顔が見たいよね」
それはどういう意味だよ!?
「わ、私、頑張るね!」
両手をギュッとして覚悟を決めた顔になる
「あっ♡ そ、その、お手洗い」
「そうだった」
俺はモジモジする
ササッ!
おい! 今、一瞬だけシエルの影が横切ったぞ。あいつは何をしているんだ?
「きゃ! あ、あの……壮太君?」
「な、何だろう?」
「あのね、今、誰か居た気がするの」
「気のせいだよ」
「気のせいじゃないよ。何かが横切った気がして」
マズい。もう心霊現象にするしかない。
「
「な、なに?」
「この家には悪霊が住み着いているんだ」
「じょ、冗談やめてよぉ」
蜷川さんが下腹部を抑えながらモジモジする。
何だかオモラシしそうなのを我慢させているみたいでドキドキするぞ。
「冗談だよね?」
「実はトイレの悪霊がね」
「きゃああぁああぁぁ……」
まるでオカルト映画のワンシーンみたいな
この子、面白いな。
冗談を信じちゃってるじゃないか。真面目というのか騙されやすいというのか。
「ごめん、冗談だから」
「も、もうっ! 壮太君のばかぁ」
しまった。
早くトイレに連れて行かないと。
「ここだよ」
俺はトイレの扉を指さす。
しかし
「お、お願い。ここで待ってて」
「ええっ!」
「一人じゃ怖くて」
「気まずいって」
「お、おお、音、聞いちゃダメだからね」
トイレに入った
そんな対応に困ることを言われましても。
バタンッ!
何だコレ?
って、そんな場合じゃねえ! シエルを何とかしないと。
ちょうどその時、ダイニングからシエルが顔を出した。
「壮太……」
「シエル、部屋に居ろって言っただろ」
「壮太、
「何もしてないって」
「手でするとか聞こえた」
アウトぉおおおおおおおお!
「しし、しねーから」
「手でするのが好きなんだ?」
「だからしねーって」
「壮太のバカ、スケベ、ヘンタイ」
その時、トイレの中から俺を呼ぶ声が――
「壮太君、居る?」
マズい。誤魔化さないと。
「ちゃんと居るよ」
「きゃ! 音聞いちゃだめぇ」
どうしろってんだよ!
それよりシエルを。
「シエル、部屋に戻ってろって」
「
「今はそれどころじゃねえって。バレちゃうだろ」
「重要なの! 壮太を名前で呼んで良いのは私だけなの。あと、お姉ちゃんなの」
困った。シエルが一歩も引かない。
お姉ちゃん呼びは後にしてくれ。
「あ、安心しろよ。俺はシエルが大切だって言っただろ」
恥ずかしい。これじゃ告白みたいじゃないか。
ああぁ、俺、昨日の雨の中で……凄いこと言ったような……。でも、シエルを大切に想ってるのは本当なんだ。
少しだけ昔の記憶を思い出した気がして。
かぁああああああ――
「そ、そなんだ……ううっ♡」
シエルの顔が赤い。
たぶん俺もだ。これは照れる。
ジャバァアアアアアア!
ガチャ!
水洗の音とドアの開く気配がした。
「と、とりあえず隠れろって」
「ちょ、ちょっと、壮太」
俺はシエルを押してカウンター裏の
「壮太君? どうしたの、そんなところで」
紙一重だった。シエルを押し込むのと、
俺はシエルの頭を押さえながら、顔だけ
「え、えっと、ちょっと夕食の準備とか……」
「凄いね、壮太君って♡ 何でもできちゃう」
「何でもはできないよ」
「でもまだ安静にしてた方が良いよ。病み上がりだから」
「そうだよね。ははっ」
ガシッ! ガシッ!
腹に鈍い痛みが走る。
シエルが俺に腹パンしていた。
ガシッ! ガシッ!
おいこら、何をしているんだ? シエルめ。
ふと下を向くと、俺の下半身にシエルの顔が……。
ヤベッ!
むっすぅうううう――
シエルがジト目で俺を
それもそのはず。無理やりシエルを押し込んだカウンターは狭く、俺の体にシエルが抱きつくような形になっているのだから。
これは緊急事態だぞ!
ああぁ、俺の下半身にシエルが! わざとじゃないんだぁああ!
「壮太のエッチ……」
小声でシエルつぶやく。
しかも叩いている腹パンチが、だんだん下がってくるのだが。
おいヤメロ! それは反則だ!
「壮太君、ホントに大丈夫?」
しかも
カウンターを挟んで俺と
「壮太君……」
キラキラした目で俺を見つめる
「わ、私ね。そ、壮太君のこと尊敬してるんだ」
「えっ?」
それは突然だった。
「壮太君は凄いよ。だって、姫川さんが陰口叩かれたてたら、すぐにフォローしに行ったし。私が脅されてたら、自分が被害を受けるかもしれないのに助けてくれた。す、素敵な人だよ」
「何の見返りもなく他人のために動ける人なんて、そうは居ないよね。でも壮太君は違う。損得じゃないんだよね。私……壮太君に憧れてるの」
そ、そんな、俺を美化し過ぎだって。俺なんてエロいことばかり考えてる普通の男だぞ。
尊敬とか憧れとかされても困っちゃうだろ。
「壮太君♡」
ぴとっ!
俺の手に
「えっ、そ、それは?」
「壮太君♡ あ、あのね、わ、私……」
ギュゥウウウウッ!
ああああぁ! シエル、俺を締め付けるんじゃない!
上半身は
詰んだ。これ、詰んだ。俺はどうなっちゃうんだぁああ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます