第22話 襲撃事件

「それにしても、君の婚約者も決まったことだし、君にはもう少し良い地位を用意しないといけないね」

「今のままでも私には荷が重すぎるくらいなんです。お戯れは止してください」

 ダニエルのトンデモ発言に、アンジェロが困ったようにいう。ダニエルはそれに気をよくしたのか楽しげに笑った。

「僕は本気だよ。側近とかどうかな?」

「アルド殿がいれば十分でしょう。彼は優秀ですよ」

「優秀なのはわかっているさ。でも、友人が側にいてくれたら毎日楽しいだろう?」

「国王の友人だなんて、おそれ多い」

「そういわないでくれ。僕が友人と呼べる人なんて君くらいなんだから」

 困った顔をしつつも、アンジェロもダニエルとの会話を楽しんでいるようだ。周りに年長者が多いダニエルにとって、年が離れているといっても若手なアンジェロは貴重な友人なのだろう。アンジェロたちの会話聞いている周りの要人たちはそわそわしている。表面上は2人の戯れをにこやかに見守っているように装っているが、内心苦く思っているのがイレーネにはよくわかった。

 

 ――あれは意図的だな。

 アンジェロとダニエルが話している間に、1人の男がダニエルの方に近づいてきた。挨拶しているうちに自然に近づいたように見えるが、護衛慣れしているイレーネはそれが偽造されたものなことに気がついた。イレーネはさりげなく男とダニエルの間に入った。

 瞬間、イレーネはダニエルに体当たりして押したたおした。ダニエルの隣にいたアンジェロまで巻き込み、3人は床に倒れ込む。間をおかず、数発の銃声が会場に響き渡った。

「っち」

「……悪いな、坊っちゃん。ちょっとじっとしててくれ」

  何事かと顔をだそうとするダニエルを押さえ込み、ダニエルたちだけに聞こえるように小さなこえでイレーネがいった。国王襲撃されるという突然の事態、に令嬢たちが悲鳴をあげる。会場は大混乱だ。悲鳴をきいても隣室に控えている兵士が入ってこないことをかんがみるに、この襲撃は綿密に計画

されたもののようだ。

「ダニエル様!」

「動くな!」

  先日ダニエルと面会したときに控えていた側近の男がダニエルに駆け寄ろうとしたのを男が止める。銃口の先にダニエルがいるので、側近は男の指示に従い足を止めた。周りの要人たちも動くことができず、固唾呑み事態を見守っている。

 

「イレーネ、君、怪我してるじゃないか!」

 起き上がったアンジェロが悲鳴をあげる。男の放った縦断のうち1発がイレーネの足に命中していた。顔を青くしているアンジェロに、イレーネははかなげに微笑んでみせる。取り乱した様子のアンジェロに、イレーネはらしくないな、と疑問に思った。演技なのだろうが、いささかやり過ぎなきがする。いつも冷静なアンジェロらしくない。

「レディ、そこを退いてもらおうか。用があるのは国王だけだ。女性は傷つけたくはない」

 男はイレーネ越しにダニエルへと銃を向けたままそういった。イレーネはダニエルを背中に隠すと、男の方を向いて大きく首を振った。目に涙を浮かべて、あたかも勇気を振り絞った感じを醸し出す。邪魔をするイレーネに、男はもう一度舌打ちをした。

「国王を傷つけることは、私が許さない」

 イレーネとダニエルをかばうように、アンジェロがイレーネの前にでた。安堵したような表情を作りながら、イレーネは心の中でアンジェロを罵った。銃を持った相手の前に割って入るなんて、こいつ、何を考えているのだろうか?守られる気がないに等しい。イレーネの後ろでおとなしくしているダニエルを見習ってほしいものだ。

 

「邪魔立てするなら容赦しない。貴様からあの世に送ってやろう」

 男がトリガーに指をかける。イレーネはアンジェロを止めるように腕を引っ張った。アンジェロはイレーネを振り替えると、安心させるように微笑んだ。違う、そういうことじゃない。意図が伝わらず、イレーネはやきもきした。銃相手なら如何様にもできるが、どう頑張っても不自然さは拭えない。どうしたものか、とイレーネが頭をフル回転させていると、突如男、の頭上からエミリオが降ってきた。そのまま男を組伏せる。会場の扉が開き、兵士がたくさん入ってきた。

 

「こら、抵抗するな!……国王陛下、アンジェロ様、ご無事ですか?」

 エミリオは男を兵士に引き渡すと、心配そうにダニエルとアンジェロに近づいた。ダニエルの前にイレーネが座り込んでいることに気がつき、エミリオはイレーネ手を差し伸べた。イレーネはエミリオの手をかりて立ち上がると、ダニエルへとお辞儀をする。眉を下げ、申し訳なさそうな表情を作った。

「ダニエル様!ご無事ですか!」

 側近が慌ててダニエルにかけよった。ダニエルは自力だ立ち上がると、無事をアピールするように笑ってみせる。側近はダニエルのあちこちを確認すると、ようやく安堵したようにため息をついた。

「ご無事で何よりです。アンジェロ殿、陛下をお守りいただき感謝いたします」

「私ではなく、イレーネとエミリオにお礼を。手柄を立てたのは彼らですから」

 アンジェロに促され、側近はイレーネとエミリオに頭をさげた。イレーネは困ったように微笑んでみる。そんあイレーネを気遣うように、アンジェロがイレーネを手をとった。

 

「では陛下、安全なところへ」

「あぁ。……アンジェロ、イレーネ、君たちも一緒に。お礼がしたいし、彼女、怪我してるだろう?手当てしないと」

 「そうだ、イレーネ、大丈夫か?」

 イレーネが怪我をしたことを思い出したアンジェロは、再び顔を青くし狼狽えている。怪我の具合を確認しようとするアンジェロを、イレーネがやんわりと制止した。大分収まってきているとはいえ、まだ血が流れている。他人の血液が付くと衛生的によくないだろう。

 このまま会場にいても好機の目にさらされる。なにがあったか追求されるとボロが出かねない。イレーネとアンジェロはダニエルの好意に甘え、共に別室へと移動した。

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