第40話
『ひさしぶり』
その時、どこからかそんな声が聴こえた。
驚いて、朝日は辺りを見渡す。
そして、あっと声を上げそうになった。
月灯りに照らされた松の古木の前に、青白く光り輝く着物姿の女の子が立っていたのだ。
赤い着物に、黄色の帯。
――それは、あの初代一乗寺下り松の古木の精霊だった。
朝日の目に、涙が滲む。
笑いながら、精霊は『しっ』と自分の口に人差し指を当てがった。
『綾香ちゃんがいるから、声は出さない方がいいわ』
久しぶりに見る精霊は、姿も形も、そっくりあの時のままだった。
まるで、彼女に会えなかった数年の歳月が嘘のように。
『長くは、ここにいられないの』
精霊の姿は、まるで映写機で照らし出されたかのように不鮮明だった。
湖畔に映った幻影のようにゆらゆらと揺らいで、今にも消えそうな雰囲気だ。
行かないで、と朝日は大声で叫びたかった。
だが、体が言うことを効かない。
精霊の姿は、すでに霞んでいる。
――どうして、僕の前から姿を消したの?
心の中で強く問い掛けながら、必死の想いで消えゆく精霊を見つめる。
『私の役目は終わったのよ』
精霊は、首を傾けて無邪気に笑った。
『大丈夫、』
精霊の体が、金色の淡い光に包まれた。
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