第37話
小学校の頃からずっと学校が一緒の女子で、幾度か同じクラスになったことがある。
八大神社に熱心にお参りしているらしく、数年前からこの界隈で頻繁に出くわしていた。
一度だけ、一緒に八大神社に祭られている一乗時下り松の古株を参拝しに行ったことがある。
たまたま言葉を交わしたところ、綾香があの木が好きだと言ったので嬉しくなり、弾みで誘ってしまったのだ。
あの時の息が詰まりそうな緊張感は、今でも覚えている。
「川岸さん……、こんな時間まで八大神社にいたの?」
問えば、綾香ははにかみながら頷いた。
透き通るような白い肌、目以外の顔のパーツが全て小さめに出来ている。化粧っ気がなく髪も自然な黒色で、それがいっそう彼女の美しさを引き立てていた。
おとなしい彼女は目立つ方ではないが、隠れファンがいるという噂を耳にしたことがある。
朝日も、綾香のことを密かにかわいいと思っていた。だが地味で暗い自分には、高嶺の花だと思っている。
「ねえ、小川くん。あの……」
小川というのは、朝日の苗字だ。朝日と綾香は、互いに苗字に“さん”と“くん”を付けて呼び合う。
ずっと学校が一緒でも、頻繁にすれ違っても、二人の間柄はそういった一線を隔てたものだった。
綾香は、何かを言い淀んでいた。もじもじと下を向き、やがて思い切ったように顔を上げる。
「今から一緒に、八大さんに行かへん?」
――八大神社に?
突然の申し出に朝日は、一瞬耳を疑った。だが、もちろん断る理由などない。
「い、……いいよ」
舌を噛みながら返事をすれば、綾香はホッとしたように表情を緩めた。
着物姿の化け猫が、もじもじとしながら向かい合う二人を、足もとで目を細めて見上げていた。
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