第35話

精霊の話は、どれもこれもが面白かった。



朝日はいつしか、四代目一乗寺下り松のふもとで彼女と話の出来る放課後を楽しみにするようになっていた。



やっと出来た友達の和哉が引っ越してしまい、塞ぎ込んでた朝日を励ましてくれたのも古木の精霊だった。



「あの子、いい子だったのにね。“見えてる”演技は下手だったけど」



そう言って精霊は、お日様のような笑顔を浮かべて朝日を安心させた。



朝日は、毎日精霊に会いに四代目一乗寺下り松の前行った。



精霊はいつも同じ場所で朝日を待っていて、笑顔で出迎えてくれた。



精霊は、友達のいない朝日の唯一の心のよりどころだった。



だが朝日が中学三年になったばかりの頃、彼女はぷつりと姿を現さなくなる。



朝日にはその原因が分からなくて、混乱するばかりだった。



自分の能力が成長とともに衰えてしまったのかもと考えたが、他の“そういうもの”は、相変わらず時折視界に入る。



精霊の機嫌を損ねるようなことを言ったのかもと、不安になったりもした。




それでも朝日は、毎日四代目一乗寺下り松の前に通いつめた。



学校が終わってからすぐに向かい、日が暮れるまでいる。



毎日毎日、辛抱強く精霊が来るのを待っている。



いつしか二年の月日が流れ、朝日は高校二年生になっていた。 



精霊は、一向に朝日の前に姿を現さない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る