第28話
二人の頭上から、一際大きい蝉の声が響き始める。
朝日くんが顔を上げ、和哉くんを見た。そして色白で覇気のない顔に、うっすらと笑みを浮かべる。
「そんなの……とっくに気づいてたよ」
「――え?」
和哉くんが、頓狂な声を上げた。
「とっくに、気づいてた。和哉が僕に合わせてくれているのは、ずっと知ってた。でも……俺に近づこうとしてくれてる和哉の気持ちが嬉しくて……、ずっと知らないフリをしてたんだ……」
穏やかな声で言うと、朝日くんは和哉くんを見た。
表情が乏しいから分かりにくいが、その顔に非難の色はないように思える。
微かに微笑む様は、親が子を見守るような大らかさすら感じた。
「そうだったんや……。お前、大人やなあ」
拍子抜けしたように、和哉くんの顔の筋肉がほぐれていく。なんやそうだったんや、と瞳を伏せた和哉くんはもう一度独り言のように口にした。
顔を背け、和哉くんが小さく鼻を啜った。
どうやら、朝日くんにばれないように泣いているようだ。
嘘を吐いたことで、長い間朝日くんに対し負い目を感じていたのだろう。
やや間が開いてから、どうにか落ち着いた様子の和哉くんが笑顔で朝日くんに問い掛ける。
「ていうかあの子、今でもおるの? 一乗下り松の、古木の精霊」
うん、と朝日くんは答えた。
「多分」
「多分……?」
朝日くんは、それ以上何も答えようとはしなかった。
寂しげな瞳を、茜色に染まり始めた空に向けただけだった。
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