第25話

――悪意からではない嘘。



昨日見たチャップリンの映画の映像が、穂香の頭に蘇る。



人は、嘘を吐く。



嘘は悪とされているが、必ずしもそうじゃない。



浮浪者の男は、盲目の少女が気兼ねをしないよう、お金持ちだと嘘を言った。



和哉くんは、朝日くんに近づきたくて、彼の心に寄り添いたくて、嘘を吐いた。



以前にも穂香は、そういう嘘を見たことがある。



嘘は、時に美しい。



だがその先には、必ず誰かの心の葛藤が待っているのだ。



「朝日は今日も、一乗寺下り松にいるんですか?」



和哉くんが、改まったような声を出した。



「あ、はい。ここのところ毎日いるらしいので、おそらく……」



穂香が答える。



ぬっと和哉くんが穂香の顔を覗き込んだ。抜きんでて背が高いでいか迫力があって、穂香は思わず後ずさる。



「それやったら、事のついでです。朝日にも、今日本当のことを告白します。許してくれるかは分からへんけど、このまま俺を待ってる朝日を放っとくわけにもいかへんから」



和哉くんの細い瞳には、固い決意の色が浮かんでいた。

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