第24話
「え? 嘘ってまさか……」
「俺に霊感があるっていう話ですよ。俺には霊感はない、幽霊なんか見たことないし、怪奇現象の類にも合うたことがないんです」
和哉くんは糸が切れたように、一気に捲し立てた。それから肩の荷が降りたように、表情を緩める。
「ずっと気にしとったけど、初めて人に言いました。せやけど、なんかすっきりしたわ」
「どうして、嘘なんか……」
穂香がそう漏らせば、和哉くんは悲しげに顔を歪ませる。
「羨ましかったんです。朝日のことが」
「朝日くんには、人には見えないものが見えるから、ですか?」
昂季の言葉に、和哉くんは黙って頷く。それから、眩しそうに青く澄んだ空を見上げた。
「一乗寺下り松の古木のこと、知ってますか? 八大さんに祀られてるんですけど。宮本武蔵が吉岡一門と決闘したことで、有名なんです。俺、子供の頃からよくあの界隈で遊んでて。宮本武蔵は、俺の憧れやったから」
和哉くんは、そっと自分の黒い防具袋を片手で撫でた。
「東京から越してきた朝日も、毎日のように一乗寺下り松のとこに来てたから、自然と話すようになったんです。ある時、『お前いつもそこで何しとんの?』言うたら、あいつ『松の精霊と話してる』言うんです」
「松の精霊、ですか?」
昂季が、いささか頓狂な声を上げた。思わぬ方向に、話が進んだからだろう。
和哉くんは昂季に顔を向け、ゆっくりと頷いた。
「朝日は、初代一乗寺下り松の精霊がよく八大さんを抜け出して、辺りをうろついてるんや、言うてて。なんや、かわいい顔した女の子や言うてました。精霊と話せる朝日は、精霊に聞いた宮本武蔵の決闘の話も聞かせてくれて……それがリアルで迫力あって。あの決闘を生で見た言う精霊と触れ合うことの出来る朝日が、羨ましくなったんです」
「それで、嘘を吐いたんですか?」
「……ちょっとでも、朝日に近づきたかった。悪気なんて、全くなかったんです。そやけどあいつ、自分以外に“見える”人間には初めて会うた言うて、ものすごく喜んどって。いつも一人で学校でも浮いてたあいつが心開いてくれたんが嬉しくて、俺も調子に乗ってしまったんです。でも、だんだん罪悪感を持つようになってしまって……」
和哉くんが、喉を震わせた。
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