第22話

「うう……っ。いい話でしたね……」



映画が終わり“THE END”のテロップが出る頃には、穂香は号泣していた。



「でもなんか、すごく切ない……!」



「まあまあ、穂香ちゃん。落ち着いて」



鼻水をすする穂香をなだめながら、絹子がティッシュを渡してくれた。勢い良く、それで鼻を噛む。



浮浪者の男がついた嘘は、“思いやりの嘘”だった。



貧乏な男が自分のために四苦八苦してお金を工面していると知ったら、少女が罪悪感を抱いてしまうからだ。



美しい心を持っているがゆえに、不器用な生き方しか出来ない浮浪者の男。心が洗われるような、もやもやするような映画だった。



その後も嗚咽を上げていると、トントン、と襖を叩く音がした。



「絹子さん、泣いてはるんですか? 大丈夫ですか?」




心配そうな昂季の声だった。どうやら、穂香の泣き声を絹子のものと勘違いしたらしい。



「あらあら。違うんよ、昂季さん。私やなくて」



絹子が笑いながら答えれば、襖が開いた。



首からタオルを提げた、灰色の浴衣姿の昂季が姿を現す。



湯上がりなのか白い頬が蒸気し、栗色の前髪が濡れていた。



涙で顔がボロボロの穂香を目にするなり、昂季はぎょっと顔を強張らせる。



「穂香さん……。こんなところで、何やってはるんですか? もう十時ですよ?」




穂香が自分の部屋にいるなれそめを絹子が話したが、夜遅いから絹子さんの迷惑になる、と半ば強引に穂香は廊下に引き摺り出された。



「映画に感動しはったんはええけど、泣き過ぎとちゃいますか?」




グズグズといまだ鼻をすすりながら階段を昇る穂香の背後で、昂季が呆れたように言った。



「悪意からではない嘘って、辛いですね……」



「なんのことか、よう分からへんけど。……そやけどまあ、ほんまに穂香さんは一日中泣いたり笑ったり忙しいですね。見ていて飽きひんわ」



「……え?」



あれだけ四六時中小馬鹿にしてくるのに、見ていて飽きないとはどういう意味だろう。



問いただそうと穂香が後ろを振り返れば、昂季はあからさまにふいっと目を逸らした。



「……とにかく、明日も出掛けますからね」



目もとを潤ませたまま、穂香はこっくり頷いた。



明日は、キーパーソンである和哉くんを尋ねる予定だった。



先ほどあの女子高生から、和哉くんの通う高校と人物像を聞き出したのだ。

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