第20話
「穂香ちゃ~ん」
階下から聴こえる呼び声に、穂香は我に返る。
「ちょっと、頼まれてくれへんか~?」
「どうかされましたか?」
階下に降りれば、廊下の向こうのある絹子の部屋から出た皴の寄った手に、ちょいちょいと手招きをされた。誘われるがままに、そちらへと向かう。
絹子の部屋に入るのは、初めてのことだった。
障子の向こうには四畳半の畳の間があり、年季の入った和箪笥や仏壇が並んでいた。
箪笥の上には、土産物らしきひょうたんや提灯とともに旧型の小さなテレビが設置されている。
薄暗い部屋の中では、画面からの青白い光が、座椅子に腰掛けた浴衣姿の絹子を照らしていた。
「絹子さんの部屋って、テレビがあったんですね」
京極莊の居間にはテレビがないので、穂香は少し驚いた。
「せやで。ビデオもあるんやで」
絹子は得意げに、テレビの下を指差す。穂香がビデオデッキを見るのは子供の時以来で、懐かしい気持ちになる。
「『街の灯』……ですか?」
穂香は、畳の上に置かれたビデオケースのパッケージを目に留めた。
黒の山高帽にステッキ姿の小男が、座っている。
テレビの画面にはその『街の灯』らしきモノクロの映像が映っていた。
「せや。チャップリンの映画でな。主人との思い出の映画やねん」
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