四
第19話
その日の夕食後。
穂香は自室で布団に寝転び、木目調の天井を見上げながら朝日くんのことを考えていた。
他人には見えないものが見えるということは、例えようもないほどに不安なものだ。
世間の常識から逸脱した自分自身を、どう受け入れてよいのか分からなくなる。うた猫が他人には見えないと知った時の動揺を、穂香は思い出す。
だが穂香がそれを特に気に留めることもなく日々呑気に過ごしているのは、自身のあっけらかんとした性格もあるが、昂季の存在が大きいように思う。
昂季にも、うた猫は見える。
穂香は、一人ではない。
――『だけど……、僕以外に“見える”って人に久々に会いました。僕ってやっぱおかしいんだって、いつも気に病んでいたので……』
そう言って、少しだけ表情を明るくした朝日くんの顔が頭に浮かぶ。
朝日くんはきっと、見えない孤独と日々戦っていたのだろう。
だからこそ朝日くんと同じく他人には見えないものが見える和哉くんの存在は、彼の中で何事にも代えがたいほどに大きなものだったのだと思う。
誰をかも 知る人にせむ 高砂の 松も昔の 友ならなくに
藤原興風の、孤独な和歌。
長年付き合った友人に先立たれ、取り残された興風の孤独は、どれほどのものだったのだろうか。
松の木を見上げ孤独を噛み締める古の歌人を想って、穂香は切ない気持ちになった。
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