第17話
「これで、間違いないですねっ! キーパーソンは和哉くんですよ」
「だから、さっきから言うてるやないですか」
朝日くんと別れた後、穂香と昂季は連れ立って一乗寺駅を目指していた。明るかった空もいつしか藍色に染まり、昼の熱気を残した風がゆるりと二人の間をすり抜けていく。
「でも朝日くんの話で、しっかり裏付けされましたよね。“誰をかも 知る人にせむ 高砂の 松も昔の 友ならなくに”。藤原興風は、長年親しんで来た亡き友人に会いたがっていた。朝日くんも、引っ越してしまった唯一無二の“見える”友達に会いたがっている。……ばっちりじゃないですか」
昂季は、何も答えなかった。
いつものように口元を引き結んだまま、茜色と藍色に二分された空に顔を向けている。
「そういえば、昂季さん。朝日くんに、妙に冷たくなかったですか?」
穂香が気になっていたことを思い出し問えば、昂季は露骨にふてくされた顔をした。
「別に。いつも通りでしたけど」
「いやいや、絶対に無愛想でしたって! 朝日くん、怖がってたじゃないですか」
「……穂香さんのせいですよ」
「はい? 私が一体何を――、」
理不尽な返答に反論しようとしたその時、突如誰かが背後から穂香の肩を叩いてきた。
後ろにいたのは、さきほどの女子高生だった。
走って二人を追い掛けて来たのか、肌が桃色に蒸気している。
「あ、あの……っ! ありがとうございます!」
息せき切りながら、彼女は二人に向けて勢いよくおじぎをした。
「朝日くんに話し掛けてくださって……! さっき自転車に乗った朝日くんとすれ違ったんですけど、なんか今日の朝日くんいつもより生き生きしてて、私も嬉しくなっちゃって……! きっと、あなた方が声を掛けてくださったからだと思うんです」
大したことはしてへんですよ、と昂季は今度はいつもの愛想笑いを浮かべた。
この人、もしかして単なる女好き? と穂香の疑惑が募る。
「それより、ちょっと聞きたいことがあるんですけどいいですか?」
「あ、はい。何ですか?」
「引っ越してしまった和哉くんは、今はどこにいはるんですか?」
「それは……」
突如、女子高生が声のトーンを落とした。
顔を伏せ、耳の横のおくれ毛を片手で弄び始める。困った時の、彼女の癖なのかもしれない。
「和哉くん、お父さんの転勤で三年くらい府外に住んでたんやけど、それからは実は、こっちに戻って来てるみたいなんです……。うちのお母さんと和哉くんのお母さんが仲いいから連絡取り合ってて、うちらとは別やけど近くの高校にも通ってるらしくて……。でも朝日くんは、そのこと全く知らへんみたいなんです」
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