第16話

「これまでも、たまに“見える”ことはあったから。いわゆる、人には見えないものが。多分……、霊とかそういう類のもんなんやろうとは思うんですけど……。ああまたか、ってそう思った程度です。それにコイツかわいいし、近くにいて害とかないし……まぁいいかなって。見えてるうちに、かわいがっておこうと思って……」 



どうやら朝日くんは、俗に言う霊感とやらを持ち合わせているらしい。朝日くんは、次に昂季の方を見て問い掛けた。



「あの……、この猫、一体なんなんですか? ……妖怪?」



「化け猫みたいなもんや」



穂香以外の人間には誰にでも愛想がいいはずの昂季が、朝日くんにはなぜか素っ気ない。



目を糸のように細め、口を尖らせている。



朝日くんは、昂季の希薄に怯えたように「そ、そうですか……」と答えた。



「食べ過ぎの化け猫なんか……いるんですね……」



朝日くんの手の動きに合わせ、うた猫は巨体を微かにぴくぴくと揺らしていた。



「だけど……、僕以外に“見える”って人に久々に会いました。僕ってやっぱおかしいんだって、いつも気に病んでいたので……」



朝日くんの表情は、相変わらず乏しい。だが心なしか、ひたすらにスマートフォンをいじっていた時よりは明るい気がした。



穂香と昂季が同類の人間だと知り、喜んでいるのかもしれない。



「久々にって、前にも“見える”言う人に会ったことがあるの?」



穂香が問えば、朝日くんは一瞬黙り込んだ。今までで、一番暗い表情をしている気がした。



「一人だけ……会ったことがあるんです……」



「一人だけ?」

 


穂香が首を傾げれば、朝日くんは穂香を見つめて頷いた。



「小学校の時の友達……。もう大分前に、引っ越してしまいましたけど……」



それから朝日くんは、目の前にある四代目一乗寺下り松を見上げる。



幹の上の方に止まった蝉が、体を震わせしきりにけたたましい鳴き声を上げていた。



青空に伸びた緑の葉を見つめる朝日くんの眼差しは、ひどく寂しげだった。

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