三
第14話
「そもそも和哉くんのフルネームすら知らないのに、どうやって捜せばいいんですか?」
「それはさっきの女の子から何か情報を聞き出すしかないでしょう。毎日辛抱強くこの界隈に通って、彼女と徐々に親交を深めて」
「そんなの、気が遠くなりそう……。大体こうも毎日うた猫戻しに駆り出されていたら、全く試験勉強が出来ないじゃないですか?」
「それとこれとは別問題ですから。どうにか、要領よくやってください」
八大神社を出てああだこうだ言い合いをしているうちに、いつしか二人はもといた一乗寺下り松に差し掛かっていた。
昂季との会話に躍起になっていた穂香はすっかり身を隠すことを忘れ、まだ松の前の石段に腰掛けたままだった青年とばっちり目が合ってしまう。
青年の顔は、即座に青ざめた。昨日の怪しい女がまたいる、とでも言いたげな表情だった。
青年は手にしたスマートフォンを急いでポケットにしまうと、停めてあった自転車に跨った。そして勢い良く、ペダルを踏み込む。
すっかり熟睡していたうた猫が体を起こした時には、朝日くんは既に数メートル先にいた。うた猫は「ニャニャッ!」と驚きの声を上げ、急いで駆け出す。
あのずんぐりとした体形が嘘のように、俊敏な動きだった。
大きなお腹が、波打つように揺れている。青色の袍を身に着けたうた猫はすぐに朝日くんの自転車に追いつくと、弾みを付けて飛び上がった。
そして爪を立て、まるでリュックサックのように彼の背中に貼り付く。
「おデブちゃんなのに、なんて素早い身のこなし……!」
逃げられたことにショックを受けるのも忘れ、穂香は思わず感嘆の声を上げていた。すると。
キキキィーー!
物凄い音を鳴らして、朝日くんの自転車が急停止した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます