第13話

「春ですね……」



女子高生の後ろ姿を見送りながら、穂香はしみじみとそう言った。



「今は夏真っ盛りですよ。大丈夫ですか?」



昂季が、怪訝な顔を向けて来る。



「……季節のことじゃなくて、青春って意味の比喩表現ですよ。あの子、朝日くんのことが本当に好きなんだろうなあ、って思って。なんか、そういうの憧れます」



「穂香さんは、恋愛経験乏しそうですものね」



図星を突かれて、穂香は一瞬言葉を失った。



「……そういう昂季さんこそ、どうなんですか? 顔だけはいいから、さぞや恋愛経験豊富なんでしょうね」



顔だけ、の“だけ”の語調を強め、穂香は精一杯の皮肉を言ってみる。



「僕は……」



そこで昂季は、何かを言い掛けて止めた。



窓から差し込む光の加減で、その表情はよく見えない。やがて昂季は仕切り直すように、一つ咳払いをしてから口を開いた。



「とにかく……これで、大体の目星はつきましたよね。朝日くんにうた猫が懐いている理由の」



「はい。藤原興風の和歌は確か、友達に先立たれてしまった老人の寂しさを詠ったものでしたよね。それは言い方を変えれば“友達が欲しい”“友達に会いたい”という意味で――きっと朝日くんが和哉くんに再会出来れば、うた猫を引き寄せた想いが紐解かれるんだと思います」



穂香の言葉に同意するように、昂季はうっすらと口元に笑みを浮かべた。



「でも……」



ふと疑問に思ったことを、穂香は口にしてみる。



「そこまでして朝日くんが和哉くんに執着する理由は何なんでしょう? 何年も前に転校してしまった現れるはずのない友達を、毎日待ち続けるなんて異常な気がします。よっぽど、気の合う友達だったんでしょうか?」



「――それは、本人のみぞ知り得ることですから。とりあえず、和哉くんの行方をどうにかして捜してください」



急に振られた無理難題に、穂香はたじろいだ。毎回ぶち当たるのが、この手の問題だ。例えその人の抱えている想いに目星がついても、他人の悩み解決の手助けは容易なことではない。

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