第12話

「さっき言うてはったから。僕らのことを、“朝日くんのことを心配してるお知り合いの方”かと思った言うて。つまり朝日くんには、あなたから見て何か心配事があるということですよね?」



全てを見透かすような昂季の眼差しに、女子高生が息を呑むのが穂香にも伝わって来た。



「僕は彼とは全くの赤の他人やけど、どうして毎日あそこにいはるんやろうって気になるようになってしまって。僕の直感やけど、彼が落ち込んでいるように見えたので……。僕にもかつて、ひどく塞ぎ込んだことがあったので分かるんです」



昂季が、瞳に陰を落とす。



穂香にはそれが演技のようにも、そうでないようにも見えた。だが昂季の真摯な表情は、女子高生の心を動かしたらしい。



女子高生は昂季をしばらく見つめた後で、静かに鎮座している古木に物憂げな眼差しを向けた。



「朝日くんが毎日あそこにいるんは、きっと小学校の時の友達を待ってるからなんやと思います。その子は和哉くん言うて、小五の時に転校してしまった子なんですけど……」



女子高生は、ぽつぽつと語り始めた。



小四の時に東京から引っ越して来た朝日くんは、内向的な性格のせいでなかなか友達が出来なかった。



そんな朝日くんと唯一仲良くなったのが、和哉くんという同級生の男の子だった。だが和哉くんは知り合って一年余りで転校し、朝日くんは再び一人ぼっちになった。



「朝日くんと和哉くんは、毎日のように一乗寺下り松の前で遊んでいました。そやからきっと、朝日くんは今でも和哉くんのことを思い出してあそこに居続けてるんやと思います。中学でも高校でも、仲の良さそうな友達は出来てへん様子ですから。もともと、朝日くんは内気な性格やし……」



自分のことでもないのに悲しげに眉を下げる彼女の姿には、心打たれるものがあった。きっと、長い間朝日くんに想いを寄せているのだろう。



しばらくの間女子高生はしんみりと古木を眺めていたが、やがて我に返ったように目を見開く。



「すいません、会うたばかりでこんなことベラベラ喋ってしまって……」



再び顔を赤らめながら女子高生はそう言うと、二人の顔を見ないまま一礼だけして、パタパタと社の外に駆け出して行ってしまった。

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