第10話
「友達、ですか?」
穂香はすぐに問いただしたが、セーラー服の女の子は黙って頷いただけで、それ以上は何も語ろうとはしなかった。
「急に話し掛けてごめんなさい。それじゃ……」と二人に頭を下げ、もと歩いていた道を先へと進み始める。
初対面で何の繋がりもない人間を相手に、これ以上話をする必要はないと思ったのだろう。
女の子は、一乗寺下り松へと通ずる手前の道を先へ先へと進み始めた。
「散歩中のふりをして、後を追いましょう」
昂季が、穂香に耳打ちする。
「朝日くんから直接話を訊くよりも、あの女の子から訊いた方が容易そうやから」
女の子が歩いて行った一乗寺下り松前の曼殊院道を東に進めば、やがて八大神社の石造りの鳥居が見えて来た。
石段を昇り境内に入れば、聴覚はよりいっそうの蝉しぐれに支配された。
境内に人の気配はなく、辺りの木々が微かにざわめいているだけである。
穂香と昂季は、とりあえず真正面に見える拝殿を目指した。賽銭箱の前で鈴尾を揺すってカラカラと鈴を鳴らし、二人同時に手を合わせる。
「あの女の子、いませんね。どこか別の場所に行ったのでしょうか」
一礼を終えてから、穂香が言う。
「この神社の中に入って行きはったのが、確かに見えたんですけど……」
昂季は振り返り、閑散とした辺りを見渡した。
「見失ったんかもしれへん。せっかくやから、今日のところは一代目の一乗寺下り松でも見て帰りましょうか」
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