第9話

振り返れば、セーラー服姿の女学生が立っていた。華奢な体型で肌は雪のように白く、細くて柔らかげな黒髪は肩まで伸びている。


スカートの丈は膝下までで、化粧っ気のない清楚な空気を持ち合わせた女の子だった。



「朝日くんの、お知り合いですか?」



緊張した声色で、女の子は言葉を続ける。



「朝日くんって……、もしかしてあの男の子のことですか?」



穂香が青年に目を向けつつそう問えば、女の子はあからさまに目を泳がせた。



「あ……、ええと、お知り合いやないんですか? じっと見てはるから、てっきり朝日くんのことを心配してるお知り合いの方かと思ってしまって……」



穂香と昂季に向けられる彼女の視線が、徐々に不審げなものへと変わっていく。



穂香は慌てて、弁解しようとした。だが穂香の頭は、こういった土壇場で上手く回転するようには出来ていない。



「僕達、よくこの界隈を散歩してるんですけど、あの方がいつも夕方になるとあそこにいはるから、何してるんやろと話してたところなんですよ」



すると、落ち着いた声色で昂季が話に割り込んで来た。さすがに、相手を安心させるような笑顔を作るのが上手い。



「あなたは、彼のご友人ですか?」



昂季の紳士的な口ぶりと態度に、女の子の警戒心が解かれて行くのが目に見えて分かった。



「小学校も中学校も高校も一緒なんです……」



そうなんですか、と昂季は営業スマイルを絶やさない。



「毎日毎日、あそこで何してはるんやろ? 暑い中ずっといてはるから、脱水症状にでもなるんやないかと、この人が心配してて」



昂季は、穂香の背中を軽く叩く。こくこくと穂香がそれに応じれば、少女は穂香に視線を向けた後で遠くにいる朝日くんを物憂げに眺めた。



朝日くんは相変わらずの前傾姿勢でスマートフォンに没頭していて、その足もとではずんぐりとしたうた猫が短い手足を伸ばして仰向けに眠っている。



「……朝日くんは、多分友達を待ってるんやと思います」



どこか心ここにあらず、といった空気で少女が答えた。

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