第8話

翌日の夕方も、穂香は昂季に引きずられるように一乗寺駅に向かった。



昨日にも増して気温は高く、通り過ぎる民家の庭からはいずれも悲鳴のような蝉の声が響いている。



松の植えられた石垣の高台に、青年はすでに先にいた。昨日と全く同じ白い柱の横の石段に腰掛け、スマートフォンに集中している。



でっぷりとしたうた猫は、彼のスニーカーの足の間に丸くなって気持ち良さげに眠っていた。



昂季に言われ、穂香は持ち前の服の中から出来るだけ女の子らしい服を選んで着ていた。



ノースリーブの、水色のワンピース。普段スカートは穿きなれていないので、太腿がスカスカして居心地が悪い。



「ていうかこの恰好、一体何の意味があるんですか?」



「女の武器を最大限に利用して、思春期の男の子を惹きつけてもらおうと思ったんですけど……」



昂季は眉をしかめ、穂香の全身を上から下まで一瞥した。



「あまり、効果は期待出来ないですね……。いつも以上に幼く見える気がしないでもないですし。まるで、小学生女子やわ」



「悪かったですね」



穂香は膨れ面になり、残念そうな表情を崩そうとしない昂季を精一杯睨んだ。


そんなこと、はじめから分かってるじゃないかと思う。自分自身の女子力が低いのは、言われなくても重々承知している。



穂香のその顔がツボに入ったのか、昂季は突如小さく吹きだした。



そして悪戯っ子のような表情で、クスクスと笑う。



完全に、からかわれてる――穂香の怒りがピークに達しようとした時。



「あの……」



唐突に背後からか細い声が聴こえ、穂香はせり上がった肩の力を緩めた。

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