第7話

うた猫が乗った弾みで軋んだ荷台を、青年は一瞬だけ振り返った。


うた猫の姿は青年には見えていないはずだから、たまたま背後が気になっただけだろう。


やがてうた猫を乗せた青年の自転車は、あっという間に道の向こうへと消えてしまった。



「逃げられちゃった……」



取り残された穂香は、茫然とその場に立ち尽くしていた。



「思春期の男の子なら、現役女子大生が声を掛けたらすぐになびくと思ったんですけど。穂香さんじゃ、力不足でしたか」



背後にいた昂季が、追い打ちのような一言を刺してくる。どういう意味だ、と穂香は横目で昂季を睨んだ。



「そやけど、ああいう警戒心の強そうなタイプが一番接触しにくいな……。なかなか、心開いてくれそうにないですし」



落ち込む穂香をよそに、昂季は顎に手をあてがい、青年の自転車が消えて行った路地の先を目で辿っている。



肩を落としつつ、穂香は青年が座っていた石垣の辺りに再び視線を戻した。よく見れば、長くて白い柱のようなものが建てられている。“八大神社”と明記されていた。



「ここって、別名八大神社って言うんですか? 鳥居のようなものは、見当たらないですけど……」



「八大神社は、この先にある神社の名前ですよ。そこに初代の一乗寺下り松が祀られているから、四代目の前でもこうやって紹介してるんやと思います」



端的に答えると、昂季は今日のところは諦めるのか来た道を引き返し始めた。

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