第6話
うた猫は、和歌の想いに似た想いを抱える人に懐く。
穂香は青年が抱える本当の想いを知り、そして紐解いてあげる手助けをしなければならない。
そしてうた猫を、昂季の大事にしている百人一首の『幻の歌仙絵』の中に戻すのだ。
だが一体どうすれば、とまごついていると、とん、と昂季に背中を押された。
「とにかくあの青年に接触して、どうにか想いを聞き出してください」
言いながら昂季は、更にぐんぐんと穂香の背を押す。
いつものパターンだしこういう展開になるであろうことはおおかた予想がついていたが、やはりどうにも穂香には抵抗があった。
もともと初対面の人に話し掛けるのは苦手だし、会話も決して得意な方ではない。
だが、昂季には抵抗できない。意を決して、穂香はゆっくりと一乗寺下り松の傍に腰掛ける青年のもとへと近づく。
青年よりも先に、うた猫が顔を上げて穂香を見た。
「あのう、」
しどろもどろに声を出せば、青年はびくっと肩を揺らして穂香に視線を移した。
丸い瞳が、更に真ん丸に見開かれている。その奥底には、怯えのようなものも見え隠れしていた。
「その……誰かと待ち合わせですか?」
穂香は、青年を安心させるように精一杯の笑みを浮かべてみた。
だが青年の顔は、ますます怯えたように歪むばかりだった。
青年は突如立ち上がると、穂香から逃げるように急いで自転車に跨る。
のっそりと起き上がったうた猫が、勢い良く自転車の荷台に飛び乗った。
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