第5話

それは、鮮やかなターコイズブルーの袍を身に着けたうた猫だった。



ぽってりとした太めの体型で、顔は白く口の周りだけが灰色だ。頭に乗った黒い冠が、少し窮屈に思える。



体が重いのか、うた猫は緩慢な動きで籠から飛び降りると、のっそりと青年の足もとに擦り寄った。



口を引き結び目を細める顔はどこかふてぶてしく、“社長”とでもあだ名をつけたくなるような風体だ。



「うた猫にも、色んなタイプがいるんですね……」



穂香が思わず笑いそうになりながらそう口にすれば、同意するように隣で昂季も頷く。



青年は石垣に立て掛け自転車を停めると、うつむきながら石段に腰掛ける。うた猫も、のそのそとその足もとに丸まった。



やや癖のある黒髪の、綺麗な顔立ちをした男の子だった。



大きめの瞳に色白の肌、体の線は細くだぼついた制服はサイズが合ってないように思える。白いシャツにグレーのパンツという出で立ち、おそらく高校生だろうか。



青年は座り込むなりスマートフォンを取り出し、何やら操作を始めた。前髪が目にかかるほど伸びていて、そのせいか暗い印象を受ける。



「“年老いた私は、一体誰を親しい友人にすればいいのだろう。高砂に生える松も、昔からの友ではないのに”、という意味の和歌です」



青年の様子を観察しながら、先ほど言い掛けた穂香の質問に答えるように、昂季がひそひそ声を出した。



「年老いて友人たちが次々に亡くなり、一人ぼっちになってしまった。そんな寂しさを詠んだ歌です」



穂香は、ひたすらにスマートフォンをいじる青年をしげしげと眺めた。



メールを打っているのかはたまたゲームに夢中になっているのか、青年は顔を上げ辺りを見回す様子もない。



自分の殻に閉じこもるように小さな液晶に釘付けになっている様子は、和歌の解釈を聴いた後では寂しげに目に映った。

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