第3話
翌日の夕方、穂香は昂季と連れ立って一乗寺駅へと向かった。
絹子の言うように、京都駅にほど近い京極莊からは、電車を乗り継いで小一時間ばかりかかった。
「一乗寺下り松、ゆうところに行きます」
駅の改札を抜け先先と往来を行く昂季は、手短に穂香にそう伝える。
「うた猫に懐かれている青年は、夕方になると決まって一乗寺下り松の前に現れるようなので」
「一乗寺下り松って、何だか変わった地名ですね」
「地名ではなく、ある松の木の名前なんです。古い街道の分岐の場所にあった松の木なんですが、宮本武蔵が吉岡一門を相手に大乱闘を繰り広げた場所として特に有名なんです」
半歩前を行く昂季は相変わらずの素っ気なさだが、穂香の疑問にはいつものようにきっちり答えてくれた。
間もなくして、道の中ほどにこぢんまりとした石垣が見えて来た。石垣は高台になっていて、その上には大きな松の木が一本植わっている。
七月の中旬を迎えたこの日、夕方といえども空はまだ青々としていて、風は少なく熱い外気はねっとりと湿っていた。
緑色の松の葉が、空に向かい大きく広がっている。
けたたましい蝉の声が、斜めに伸びた松の幹から鳴り響いていた。松の木の脇には、細長い石碑が建立されている。
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