第2話

絹子は湯呑を口から離すと、にこにこと笑みを溢しながら二人の会話に加わって来る。



「そやけど晃季さん、えらい遠くまで行きはったんやなあ。そんなところで、何してはったの?」



「散歩です」



ぷっと、穂香は吹き出しそうになった。



昂季はどこかの大学に籍を置いてはいるが、今は休学中らしい。



以前は暇を持て余して京極荘でごろごろしていることが多かったのに最近は出掛ける姿が目につくようになったのは、どうやら散歩に出ていたためのようだ。



若いのに、まるでおじいさんのような人だと思う。



笑いを堪えている穂香を、昂季は糸のように目を細くして睨んできた。



殺人的な鋭い眼差しに、青ざめた穂香はごくりと喉を鳴らして笑いを呑み込む。



「一乗寺言うたら、ラーメン屋さんがぎょうさんあるところやね」



「絹子さん、よう知ってはりますね。良かったら今度一緒に行きましょう」



穂香に向けられた鋭い睨みが嘘のように、昂季は絹子にはにこにこと愛想がよい。



一見すると感じが悪いことこの上ないが、いつものことである。

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