第5話

男は俺に気付くと「あ」と言う風に口を開き、俺の方に体を向けた。


奴の周りにいた男達もそれに習い、じろじろと俺を見て来る。






「おい、そこのガキ」


男は、煙草を口から外すと俺に話し掛けて来た。


ドスの効いた、恐ろしい声だった。


無視を出来る状況でも無く、俺は奴の前で足を止めた。






「お前、イェンをやり逃げしたガキだろ」


ああそうか、あの女の名前はイェンだったと思い出した。


少しぽってりとした唇が、ぞくぞくする女だった。


「お前と連絡つかねえって、イェンの奴半狂乱になってるぞ」


恰幅が良くどこかしら愛嬌のある顔に見えなくもないが、俺を見据えるその目には全く人間味が無かった。







やべえな。


めんどくせえ女に、手を出しちまった。


俺は今からこいつらに、殺られるのかも知れない。


だがそれはそれで自業自得だと納得する、妙に落ち着いた自分が心のどこかにいた。







男はじりじりと俺に詰め寄ると、じっと上から俺を見下ろした。


俺だって年の割りに背は高い方だが、男の方がもっと高かった。


二メートルぐらい、あるんじゃねえか?


それはちょっと、言い過ぎか。

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