第34話

グエンは、リュウが猿鬼と同じようなことをしていると言いたいのだろうか?


だとしたら、それでもいいとヨウは思った。


だが、目の前の男が知ったようにリュウのことを語るのは許せない。


「恵まれない幼少期? そんなの、他人が判断することじゃないわ」


突然、挑発的なまなざしを浮かべたヨウを、グエンは解せないように眺めている。


「あなたはどうなの? 恵まれた幼少期だった? 少なくとも私だって、そうだったわ。傍から見れば、お金持ちで、何不自由なく育ったお嬢さんに見えるかもしれないけど……」


ヨウは、訥々と語りだす。


「母に会えるのは、年に数回程度。あの人は、年がら年中、あちらこちらで豪遊していたから。そして私を見るたびに、ひどく嫌そうな顔をした。そのたびに、私は胸がズタズタに引き裂かれるような気持ちになったわ。使用人たちだって、いつも私を蔑むような目で見て、陰でコソコソ噂してた。広い屋敷の中で、私はいつもひとりだった。決して恵まれた幼少期ではなかったわ」


暗闇の中を、たった一人で模索しながら、ヨウは生きてきた。


大人たちの目が怖かった。ヒソヒソ声と、馬鹿にしたような笑い声も。


ヨウはそのたびに自分が何者なのか分からなくなり、己を恐れ、価値を見失った。


幼少期のことを思い出し、瞳に暗い影を落としているヨウを、グエンは無表情のままじっと見つめている。

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