第32話

幾日が経っただろう。


ようやくのことで、グエンが再びヨウのもとを訪れた。


「久しぶりだな。顔色が、大分良くなったじゃないか」


上機嫌にも不機嫌に感じる独特の語り口。


タバコをふかしながら、グエンは床に座り込むヨウを見下ろすと、淡々と口を開いた。


汪劉オウリュウ汪晋オウチャンの息子。生きていれば、推定十八歳。チャンは、あんたの住む屋敷から一キロのところで、小さなリンゴ農家を営んでいた。調べたところ、リュウはチャンの実の息子ではないな。七歳のときに、どこからか貰われてきている。チャンはリュウをろくに学校にも行かせず、畑仕事の手伝いばかりさせていたようだ」


ヨウは、固唾を呑んでグエンの話に耳を傾けていた。


リュウがチャンじいさんの義理の息子だったことを、ヨウは今初めて知った。


見た目からして、リュウはチャンじいさんの孫だと勝手に思い込んでいたのだ。


「そして、六年前。チャンの家は、突如火事になった。焼け跡から発見されたのは、チャンの遺体のみで、リュウはそれを機に行方をくらましている。だが、どうやらチャンは、火事になる前に何者かに殺されていたらしいな。犯人は、リュウで間違いないだろう」


そこでグエンは膝を折ると、ヨウの顔を真っ向から見据える。


いつになく、その瞳はぎらついていた。まるで獲物を見つけた肉食獣のようだと、ヨウは震える。

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