第31話

その日から、グエンはぷつりとヨウのもとを訪れることがなくなった。


その代わり、拘束具こそ外されなかったが、ヨウのもとへは日に二度の食事が運び込まれるようになった。


身体の衰えは次第に回復していったが、ヨウは自分の愚かさを激しく後悔していた。


中国一の闇組織である赤龍会の情報網は、伊達じゃない。


きっとリュウの素性はすぐにバレて、今いる場所も突き止められるだろう。


猿鬼とリュウがいったいどんな関係なのか、ヨウにも分からない。


だが、グエンは猿鬼を敵対視している。今のリュウが、もしも猿鬼に近い立場にいたならば、命の保証はない。




昼夜の区別がつかないほど暗い部屋の冷たい床に転がり、ヨウは幾日も震えていた。


リュウだけは、どうかリュウだけは守りたい。


母親に愛されず、父親が誰かも知らされず、ずっと孤独だったヨウ。使用人たちは他人行儀で、母親の素行の悪さから、同級生からも蔑まれて生きてきた。


そんな毎日の中で、リュウの存在は、唯一の光だった。


リュウは、あの掘っ立て小屋の裏にある緑の丘で、いつもヨウの話を聞いてくれた。


寡黙なリュウは、あまり喋らない。それでも、真剣に耳を澄まして、感慨深く頷いて、ときに優しく微笑んでくれた。


「リュウ、ごめんなさい……。どうか、無事でいて……」

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