第27話

「よう、お嬢さん。”猿鬼”について知ってることを話す気になったか?」


いったい、幾日が過ぎたのだろう。


ある時、唐突にグエンが現れた。


鉄格子を開き、こちら側へと入り込んだグエンは、横たわるヨウの手前でしゃがみ込む。そして、余裕たっぷりの笑みを浮かべた。


水も食料も与えられず、床に転がされているだけのヨウは、みるみる体力を失っていた。


最早、この非道な男に悪態を吐く気力すら残っていない。





「………」


「おっと。まだ、死んでもらっちゃ困るぜ」


グエンが、手にしたミネラルウォーターのペットボトルを、見せつけるように宙にかざす。


ヨウは、みるみる目を見開いた。


―――欲しい。今すぐに、あの水が欲しい。


渇いた喉が、どうしようもなく疼き出す。


気づけば、ヨウはなけなしの力で無意識に身を起こしていた。


だが、そんなヨウの目前から、グエンはペットボトルをひょいと退ける。


ヨウの顔が、グエンに対する憎しみで歪んでいく。





「この水が飲みたいなら、猿鬼のことを話せ」


「………」


「それが嫌なら、俺の口から吸い取るんだな」


そう言うと、グエンは挑発的な眼差しをヨウに向けたまま、ごくごくと喉を鳴らしてペットボトルの水を飲み始めた。


やがて水で濡れた口元を、グエンはヨウの方へと近づけていく。


水で潤ったグエンの形の良い唇から、ヨウは目が離せないでいた。


―――もう、死んでしまいたい。


そう思うと同時に、瞳には涙が溢れた。


だが、気持ちとは裏腹に顔はグエンの方へと近づいていく。

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