第26話
翌日、ヨウは部屋から追い出され、邸の隅から伸びた長い階段を下った先にある牢屋に閉じ込められた。
そこは、冷えた岩壁に囲まれた、寒々しい場所だった。
壁の上方に開けられた小さなくり抜き窓からは僅かに光が入る程度で、ひどく薄暗い。
おまけに、ヨウは両手両足を手錠で拘束されており、体の自由も効かなかった。
ヨウはその状態で、しばらくの間放置された。
地下水の滴る音、ネズミの徘徊する足音、そして遠く聞こえる誰かの悲鳴。そんなものが、否応なしにヨウの耳に飛び込む。
闇の中で、空腹と喉の渇きに必死に耐えながら、恐怖に打ち震える。
―――気が狂いそう。
きっとこれが、ヨウに課せられた拷問なのだ。
だが、どれほど意識が朦朧としても、ヨウはグエンにリュウのことを話すつもりはなかった。
リュウは、ヨウにとっての特別だった。
母親に見放され、自由と愛を闇雲に求め続けたヨウの人生は、いつも混沌として沈んでいた。
それでも、リュウと過ごした日々だけが、闇夜に光る星屑のように、燦然と輝いている。
白い歯でリンゴをかじり、うっすらと微笑んだ顔。
山道を裸足で駆けまわる、勇ましいうしろ姿。
夕焼け空を見つめる、どこか愁いを帯びた眼差し。
そして燃え盛る小屋を前に、ヨウに再会を誓った濁りのない漆黒の瞳―――。
リュウとの思い出は、ヨウの宝だった。
だから、あの薄気味悪い男には奪われたくない。
この身が朽ち果てようとも、絶対に。
そう心の中で強く誓いながら、冷たい床に横たわったヨウは、唇を噛んだ。
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