第23話

変な汗が、背中に沸き立つのを感じた。


猿鬼のことは、中国に住んでいる人間なら誰でも知っている。


数々の残忍な事件を起こした、中国史上類を見ない凶悪な殺人鬼。


猿鬼と呼ばれる所以は、その男がいつも被っている京劇の猿の隈取を施した仮面だ。


滑稽とも不気味とも見て取れるその仮面の男は神出鬼没で、表情一つ変えず、人並み外れた身体能力で舞蝶のごとく人を次々に殺めたと云われている。


もっとも、その殺人鬼がヨウが生まれる前に処刑されたのは有名な話だ。





ところが、その殺人鬼が、二十数年の時を経て再び出没するようになったらしい。


ここのところは、新聞でもテレビでも、その話題で持ちきりだった。


処刑されたという話はデマで、実際のところ猿鬼は死んでなかった、などという噂話も飛び交っている。





もちろん、ヨウは猿鬼には会ったこともないし、噂話の真相にもさほど興味がない。


ただ、最後に会ったあの日、リュウが”猿鬼”という言葉を口にしたから。


”猿鬼のもとへ行く”と燃え盛る炎の中、芯の通った瞳でヨウに伝えたから。


グエンの口から猿鬼という名前を聞いて、心がざわつかない訳がなかった。

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