第21話

―――だが。


指先に触れた柔らかな感触に、ヨウははっと顔を上げる。


いつの間にかグエンが、懐から取り出したハンカチをヨウの指にあてがっていた。


真っ白なシルク地が、小さく赤く染まる。






「バラには触れるなと言っただろう」





睫毛を伏せたまま、淡々と話すグエン。


どうやら、懐に手を差し入れたのは、拳銃ではなくハンカチを取り出すためだったようだ。


ホッとしたというよりも、ヨウはむしろ驚いた。


―――変な男だ。





そう思ったとたん、まるで心のタガが外れたみたいに、肩の力が抜けた。


血が止まったのを確認すると、グエンはあくまでも無表情のまま、血のついたハンカチを懐に戻す。


「あの……、グエンさん」


彼の名前を口にしたのは初めてだ。


グエンの鋭い瞳が、ヨウを見据える。








「お母さんが知ってる”ある情報”って……、何なの……?」

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