第20話

「十日、だな」


ヨウの指先を傷つけたバラを撫でながら、グエンが言った。


「あんたの言っていたことは、どうやら本当のようだ。あんたの母親は、あっさりとあんたを捨てた。哀れな女だ」


茎を辿っても、そのバラはグエンの指は傷つけない。


まるで、この世の勝者と敗者を知っているかのように。


ヨウにとっては毒花だったそれは、グエンの傍ではひたすら優雅に咲き誇る。


「俺は、やるべきことをやらないといけない」


グエンの左手が、おもむろに自分の懐に差し込まれた。


ヨウは、知っていた。


――グエンが、そこにも小型の拳銃を隠し持っていることに。






わたし、殺されるんだ。





漠然と、そう思った。


俯き、そっと瞼を降ろす。


間もなく、懐から取り出されたグエンの拳銃が、ヨウの後頭部に触れるだろう。


そしてものの数秒で、全てが終わるのだ。


不思議と、怖くはなかった。


ただ……。








―――『いつか、迎えに来るから』





燃え盛る炎を前に、ひたむきな視線をヨウに送っていたリュウの姿を思い出し、たまらなく泣きたくなっただけだ。

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