第17話

「ふうん」


強情なヨウの物言いを、グエンは物ともせずに受け流す。


「来なかったら、あんたを男どもの慰みものにするだけの話だ。永久に、地下牢に閉じ込めて」


当然のことのように、言い切るグエン。


冷えた視線がヨウを貫き、ヨウは思わず身を凍り付かせた。


すると、おもむろに伸びてきたグエンの指が、ヨウの顎先をとらえる。






「”ヨウ”か。縁起の悪い名前だ。何せあの”楊貴妃”の”楊”だからな。あの女は美しさだけで、国を滅ぼした」


ダークブラウンの瞳は、人間の温もりからはかけ離れていた。


ヨウを、憎んでいるわけではない。蔑んでいるわけでもない。


美術品を品定めするかのように、無機質で心底冷え切っている。


「それから、はじめて赤龍会を裏切った男の名前も”ヨウ”だった。もっとも、俺が生まれる前の話だがな」


ほんの少し口角を弾ませて、そこでグエンはようやくヨウの顎先から手を放し、再び煙草を吸う。


「まあ、よくある名前だ」






この男のオーラには負けまい、と幾度も言い聞かせていたのに。


ヨウは自分でもはっきりとわかるほど、気づけば小刻みに震えていた。


―――『男どもの慰みものにするだけの話だ』


グエンの悪魔のような囁きが、頭に残って離れてくれない。


そんなヨウを見て、グエンは更に嫌な笑みを浮かべる。

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