第16話

するとグエンは、クツクツと喉元を鳴らして笑った。


そして大理石の床をゆっくりと歩み、ヨウの方へと近づいてくる。


「あいにく、金なんかどうでもいい。あんたの家はたしかに金持ちだが、俺の方がもっと金持ちだ」


「………」


ヨウは、息を詰まらせた。


グエンの言い分はもっともだ。


赤龍会といえば、中国ではその名を知らないものがいないほどの強大なマフィア組織だ。


鬼心会という組織と並び長年中国の裏社会を牛耳っていることは、年端のいかない子どもですら知っている。


そんな大組織のトップの息子である彼が、金に困っているようには思えない。







「俺の狙いはな、」


ぎしり、とグエンがベッドに腰を落としヨウの顔を覗き込んだ。


「あんたの母親だよ」


ダークブラウンの瞳が、細く妖しく歪められる。


「ママ……?」


「そうだ。あの女は、ある重要な情報を握っている。あんたを囮にして、それを吐かせようって魂胆さ」


「重要な、情報……?」


「ああ」


そこで言葉を切ると、グエンは懐から煙草を取り出し火をつけた。


吐き出された紫煙が、ゆらゆらと天井へと昇っていく。








「でも、」


この男の威圧感に負けてはいけない。


そう思いながら、ヨウは言葉を吐き出した。


「わたしを囮にしても、何の意味もないわ。だってママには愛されてないもの。現に、何日もほったらかしなんでしょ?」


「まだ三日だ。そのうち来るさ」


「来ないわ」


「来るだろ。たった一人の娘だ」


「だから、来ないのよ」

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