第15話

中庭へと通じる大窓のカーテンを開けながら、グエンが言う。


朝の陽気に不似合いなブラックの細身のスーツが、逆光を受けてそのすらりとしたシルエットを浮き彫りにする。


後ろポケットには、悪びれた風もなくシルバーの拳銃が差し込まれていた。


シーツを固く握りしめながら、ヨウは大窓の前に立ちこちらを見下げるグエンをきつく睨んだ。








「……いつまで、私を閉じ込めるつもり?」


「いつまででも。そもそも、あんたが望んで俺について来たんだろ?」







したたかな笑みを浮かべつつ、小首を傾げるグエン。


小馬鹿にされているようで、ヨウは不快感を覚えた。


そして、負けじと語気を張る。






「身代金目当ての誘拐だと知ってたら、ついて来なかったわ」


「身代金?」


「そうよ。お金目当ての誘拐でしょ? でも残念ながら、ママはわたしのためにお金を出したりなんかしないから」






ヨウを見るたび、まるで毛じらみを見つけたかのような不快な表情をする母親。


自分が愛されていないことなど、百も承知だ。


男をとっかえひっかえする母親にとって、ヨウは邪魔者以外の何ものでもないのだろう。


今頃はきっと、厄介払い出来てせいせいしているに違いない。

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