第5話

「リュウっ、無事だったのね……」


無我夢中で、ヨウはリュウのもとへと駆け寄った。


炎に煽られた熱風が、むんとヨウの体に押し寄せる。


ひょっとすると引火するのではと恐れを抱くほどの体熱。


それでも、構わなかった。


ふらふらと歩くリュウの前で立ち止まり、涙ながらにリュウの無事を確認する。






煤で汚れてはいるものの、リュウの様子に別段変化はなかった。


短く刈り込まれた艶やかな黒髪も、村のおばさんたちが美男子(メイナンズー)とはやしたてる切れ長の双眸も、いつものままだ。


だがその瞳は焦点を失い、行き場をなくしている。






「リュウ……、何があったの……?」


ヨウが問えば、ようやくリュウはヨウに視線を向けた。


そこで、ヨウはリュウの異変に気づく。


リュウの綺麗な頬には、ところどころ血が付着していたのだ。


顔だけではない。


煤けたタンクトップや腕など、いたるところに赤い血が飛び散っている。






「リュウ……。その血、どうしたの? 怪我したの……?」


慌てたヨウはすぐさまリュウの状態を再確認するが、リュウは呆けてはいるものの、別段傷を負っている様子はなかった。


そこで、ヨウは気づく。


その血が、”リュウのもの”ではなく”別の誰かのもの”であることに。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る