第3話

ヒメリンドウの咲き誇る丘を越え、トパーズのように煌めく小さな湖を過ぎようとした時のことだった。


風に乗りどこからともなく漂ってきた鼻をつく匂いに、ヨウは顔をしかめる。


何かが、燃えているような匂いだった。







自ずと、ヨウは数ヶ月前にこの村で起きた暴動を思い出す。


子どものヨウには詳しいことはわからなかったが、この頃中国では相次いで反思想派の暴動が起きていた。


忘れられたような場所にあるこの村も例外なく暴徒に襲われ、あらゆる宗教の本や建立物が放火され燃やされた。


あの時の赤く燃え盛る炎と、全てを焼き尽くす匂いを覚えている。


リュウの家が近づくに連れ勢いを増すこの匂いは、その時の匂いに、酷似していた。







そしてヨウはついに、茜色の空が赤々と燃えているのを見つける。


―――そこは、リュウの家だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る