第5話
透也のあとに続いて、さび付いたアパートの階段を駆け降りた。
九月に入ったばかりの今日は、夏の照りつけるような日差しも耳をつんざくような蝉の声もまだ健在で、外はひどく蒸し暑い。
「あっついね~」
学校までの道を歩みながら、隣を行く透也に話しかける。
数メートル歩いただけで、わたしの額にはすでに汗が滲んでいた。今日も、最高気温は30度近くになるかもしれない。
「暑い暑い言ってたら、余計に暑くなるぞ」
「そんなの、科学的根拠はないでしょ。言いたくなっちゃうんだから仕方ないじゃない」
「科学的根拠はなくても、心理的影響はあるんだからな。暑いときに『寒い』って言ったら、本当に寒くなるって誰かが言ってた」
「それって、小学校の時に流行ったやつじゃん」
思わず吹き出せば、そんなわたしを見て透也は微笑を浮かべる。
ほんの少し小首を傾げてブラウンの瞳を僅かに細めて。
わたしが喜んでいるのを、堪能するような素振りを見せる。
整った顔でそんな仕草をされたら、男だろうと女だろうと一瞬だけ目を奪われてしまう。
そういうことを無意識にするような人だから、透也はモテるのだろう。
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