第6話
───あの女は。
長くて黒い睫毛に、濡れた黒い瞳をしていた。
白い肌は雪の様に濁りが無く。
唇はいつも、春の花の様に淡く色付いていた。
───そしてその唇を開き、俺を呼ぶ時は「ヒヤマ」と苗字で呼んだ。
俺は煙草をくわえたまま立ち上がると、窓辺に近付いた。
所々鍍金が剥がれて赤銅色のサビが剥き出しになったその窓枠に手を掛け、一気に上に押し上げる。
開いた窓からは、途端に排気ガスの臭いとこの街の澱んだ空気が流れ込んで来た。
遥か下方でせわしなく往来しているバイクや車を、ぼんやりと見下ろす。
───その時だった。
テーブルに放り投げていた携帯電話が、無機質な機械音を響かせた。
俺は軽く舌打ちをしてから口から煙草を離し、テーブルに近付いた。
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