第9話

在原家の裏手から、山道に入る。途端に生い茂る樹木に囲まれ、湿った空気に包まれた。



山を散策するようになってから1週間以上が過ぎているから、足場の悪い山道にも大分慣れてきた。



木々のそよぐ音、鳥の羽ばたく音。



黄金色の木漏れ日、朝露で湿った土。



大自然の恵を堪能しながら山を登る。目指すのは、昨日見つけた大木だ。その大木は2本の木が絡まり合うように成長した不思議な形をしていて、山の中腹にある。



昨日、その木の側で野うさぎを見つけたのだ。野生のうさぎなんて見たことがなかったから、思わず歓声を上げて、逃げられてしまった。



今日は声を潜めて近づいて、出来ればしばらく観察していたい。








小川を越え、神秘的な巨木のもとまで駆けていく。しばらく木の幹に隠れて、うさぎが来るのを待った。



だけど、いつまで経ってもうさぎは現れない。だから私は、うさぎを求めて、少しずつ森の奥へと入って行くことにした。






どれくらい、奥まで来ただろう。あきらめかけていた私は、1時間ほど森を歩き回って、ようやく茶色い野うさぎを見つけた。



長い耳をヒョコヒョコと動かし、鼻をピクピクさせながら草を食べる仕草は、抱きしめたいくらいにかわいい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る