第6話

「ナズナちゃん」



ふいに、改まった声で小夜子さんが私を呼んだ。



「なあに?」



「一つ、約束して。あのお屋敷には、絶対に近づかないで」



小夜子さんが、中庭の向こうを指さす。深緑色の丘の中腹に、夕日色に染まった白っぽい建物が見えた。



初めてこの家に来た日、門前から見たあの邸だ。






「どうして? あのお屋敷に、何かあるの?」



「あの家はね、妙堂院家といって、この在原家よりも勢力を持っている人達が住んでるの」



「このお家よりお金持ちなの?」



「そうよ。この地域だけじゃなくて、日本中のあちらこちらに土地や財産を持っている強大な豪族よ。在原家は、もともとあの妙堂院家を守るために出来た家なの」



「へえ、すごい。でも、どうして近づいちゃいけないの?」



「今は、とても仲が悪いからよ。ナズナちゃんも、在原家に出入りする人間として、このことだけは覚えていて」



「うん、分かった。近づかない」



本当は、どうして仲が悪いの? と聞きたかったけど、小夜子さんの柔和な笑みには、質問を阻止するような、有無を言わせない迫力があった。



だから私は深くは考えずに、小夜子さんの言葉に従うことにしたんだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る