第5話

そして私とママは、しばらくの間その家に厄介になることになった。



小夜子さんは、妹の子供である私を自分の子供のようにかわいがってくれた。



そして、暇を見つけては私に色々なことを話してくれた。



「この在原家はね、古くからこの辺り一帯では有名な豪族なの。それこそ、何百年も前から続いている由緒正しい家なのよ」



色とりどりの夏の花が咲き誇る英国風のガーデンで、ベンチに腰掛ける私の髪を撫でながら、小夜子さんはそう語った。









「へえ。小夜子さんも、そんなすごい一族の一員なんでしょ? 羨ましい。だって、大金持ちじゃん」



「ふふ。ナズナは、素直でいい子ね」



サラリ……。小夜子さんの細い指先が、私の背中まで伸びた髪を梳いていく。



「ナズナの髪は、細くて柔らかいのね。そして、色素が薄い。私の髪にそっくりだわ」



「ママが昔から言ってた。私は、小夜子さんによく似てるって」



「あら、言われてみればそうね。ふふ、ナズナが本当に私の子供だったら良かったのに」









そう呟いた小夜子さんの表情は柔らかだったけど、その瞳の奥は、どことなく寂しげだった。



小夜子さんの背後から迫る、夕日の色合いのせいだろうか。



まだ幼かった私には、小夜子さんが悲しんでいるのか、それともそういう風に見えただけなのかは、よく分からなかった。



ただ、小夜子さんには子供がいないってことを思い出しただけ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る